MEDCHEM NEWS Vol.32 No.4
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AFBNRWNNNNNX2. レチノイドX受容体を標的とするIBD治療191A:RXR作動薬1–5の分子構造、B:RXRアゴニストに見られる共通構造とRXR部分作動薬の分子設計戦略。Wは連結ドメインを示す。疎水性ドメイン酸性ドメイン図1  RXR作動薬の分子構造と筆者らによるRXR部分作動薬の分子設計戦略 MeMeMeMeMeMeMeMeCO2HMeMeMeMeMeCO2H1:LG1013052:bexarotene3:CBt-PMNMeMeMe2: R = CO2H[11C]2: R =11CO2HMeMeCF3Me4: X = CH5: X = NCO2H4:CBTF-PMN5:CATF-PMNMeMeMeMeCO2H1-2.IBDに対する新たな治療薬候補を求めて IBDの発症は、遺伝的要因と食習慣を含む環境要因の両方とされる。コレステロールと動物性脂肪を含む高脂肪食、いわゆる西洋食は、IBDの素因と考えられている。170,000人の被験者を対象とした研究にて、長鎖n-3多価不飽和脂肪酸(polyunsaturatedfattyacid:PUFA)の摂取がUCと負の相関を認めたことは興味深い3)。デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発腸炎モデルマウスへn-3PUFAの1つであるdocosahexaenoicacid(DHA)を投与することで、腸炎を軽減することも報告 CDでは、軽症例や寛解維持療法に5-ASA、salazosulfapyridine(SASP)が用いられる。ステロイド系抗炎症薬は、寛解導入時に使用されるが、満月様顔貌、骨粗鬆症、易感染症などのため、長期間の使用には不適とされている。ステロイド系抗炎症薬が減量・中止できない場合には、免疫調節薬(azathioprine、mercaptopurine)が使用される。これらで治療効果が認められない場合、抗TNF-α抗体や抗IL12/23抗体(ustekinumab)、抗α4β7インテグリン抗体(vedolizumab)が選択される。これらは強力に炎症反応を抑制する。しかし、生物学的薬剤の価格は従来の低分子医薬よりもはるかに高く、医療費の高騰を招いている。それだけでなく、使用時間の経過とともに治療能力が低下し、投与量の増加や治療方針の変更が必要となる場合がある2)。これらの事実は、新たな作用機序に基づくIBD治療薬が求められていることを意味する。2-1.何ゆえレチノイドX受容体を標的とするのか? RXRは、標的遺伝子の転写を調節する核内受容体であり、9-cisレチノイン酸(9cisRA)などのリガンドの結合によって活性化される。RXRは、自身のホモ二量体、もしくはペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)や肝臓X受容体(LXR)、Nur77を含む他の核内受容体とヘテロ二量体を形成する9)。これらのヘテロ二量体は、単一のRXRリガンドによって活性化され、その作用は「permissiveaction(許容作用)」と呼ばれる10)。筆者は、このようなRXRを標的とすることで、分子標的薬でありながら種々の効果を総和した漢方薬的な効果が得られるのではと考えた。漢方薬は患者の体質、体全体のバランスを考え治療するが、筆者はRXRされている4)。DHAは、GPCRであるGPR1205)やレチノイドX受容体(RXR)6)のリガンドとして機能することが示されている。DHAの腸炎治癒についてはGPR120を介するとの報告もあるが7)、以前よりRXRリガンドの創出研究に携わってきた筆者らは、RXR作動薬であるLG101305(1)(図1A)によるTNBS誘発マウス腸炎モデルにおける治療効果8)にも注目した。本稿では、筆者らがRXRを標的に研究を進めてきた背景とともに、その成果の1例として、腸炎治療効果を示すRXR部分作動薬について紹介する。薬候補の創出

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