MEDCHEM NEWS Vol.32 No.4
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4. DM1 project, DM2 project and tau 4-1. 筋ジストロフィー1型を標的とした、C-U-Gリピート配列伸長切断のための二量体化合物リンカー部位最適化4)186た。また、本キャンパスは車で10~15分程度で、JunoBeachやRivieraBeachといった綺麗な海岸や浜辺にアクセスすることが可能で、早朝ラボの始まる前に早起きしてジョギングしてきたという同僚も多く見られた(筆者はそんなことはしたことがなかったが)。 フロリダキャンパスに在籍しているラボとしては、多様なbiology(neurology、genetics、immunology等)、chemistry(medicinalchemistrylabも)、informatics等のラボに加え、各種biophysics、NMR、HTSscreen-ing、DMPK(invitro/invivo)、behavioralpharma-cology等、創薬に必要な広汎の機能を有する。MatthewDisneylabは、RNA(RibonucleicAcid)結合性低分子を独自に同定・開発して用いることで、RNA機能を調節するケミカルバイオロジー研究を行っている。これを通じて、ゲノムシークエンスから未だ治療法が確立されていない治療領域へのアプローチを開発することを目指している。具体的には、脆弱性X症候群1)、ハンチントン病2)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)3)、筋ジストロフィー1型4)および2型5)を含むマイクロサテライト(数塩基程度の反復DNA配列)異常疾患、タウオリゴマー関連疾患である前頭型側頭認知症パーキンソニズム(FTDP-17)やアルツハイマー病6)、マイクロRNA結合性分子を標的とした種々のがん疾患7)等が研究の出口領域として含まれている。筆者はメドケミスト/バイオケミスト(+α)としてラボに参画し、種々のデータと仮説に基づいてデザインした低(中)分子化合物を合成し、また合成した化合物の評価の一環としてFRETbaseのinvitroassay、化合物と標的RNAのaffinityを測定するbiophysicalassayやNMRを用いてRNAと低分子のbindingstudyを実施した。Invitroassay等の未経験の実験に関しては、ラボのgraduatestudentやresearchassistantにたくさん質問することで習得することができた。これまですべて薬理部門のパートナーにお任せしていた部分を経験でき、有意義であったし、今後、未知・未経験の分野に対して「これはできないな」といったネガティブな先入観のハードルを下げることができたように感じる。pre-mRNA project ラボにはメドケミストが少数であったため、ラボで動くさまざまな(ほぼすべての)プロジェクトのメドケムパートに対して、横断的に携わることができた。これによってさまざまなタイプのRNA結合性低分子のデザインと合成を経験することができたが、特にそのなかで、Publicationされている部分の概要をご紹介したい。 異常RNAリピート伸長が病因となっている疾患が30以上知られており、未だにその治療法は存在しない。その1つに筋ジストロフィー1型(DM1)があり、DMPK(dystrophiamyotonicproteinkinasegene)遺伝子中に存在するC(シトシン塩基)-U(ウラシル塩基)-G(グアニン塩基)リピート配列伸長がその責任分子となっている。DMPKとMBNL-1(muscleblind-like1)タンパク質が複合体を形成することで、望まれない機能を発現する。このリピート伸長は、塩基対形成とよばれる特徴的な水素結合によって高度な2次元3次元構造を有することが知られており、CUG/GUCの分子内ループモチーフが周期的に繰り返されることから、affinity獲得向上のため、二量体化合物を探索してきた(図1a)。当研究室では、種々のリンカー検討が行われており、N-alkyl-peptoidリンカーにおいて活性と細胞毒性のバランスが取りやすいことが報告されていた。ここで「構造を固定化したり、標的RNAと水素結合したりする可能性のあるアミノ酸リンカーを検討しよう」という議論から、プロリン、ヒドロキシプロリン、チロシン等を検討したところ、FRETbaseのinvitroassayでL-プロリン2残基が最もよい活性を示す結果となった。化合物評価としてFRETbaseのアッセイを自分で行うことになり、はじめて自力でまともなシグモイドカーブが書けて活性値が算出できたときは、感動的であった。幸運にもこれまで当研究室にあるどのリンカーよりもよい活性値を示すデータが得られたので、興奮気味の先生とハイタッチしたのを覚えている。 最適化された二量体化合物に対して、さらにRNAの切断モジュールであるBleomycinA5が結合した化合物をデザイン・合成、評価したところ、直接的に細胞中の標的のC-U-Gリピート配列を切断することができた。また、この化合物はDM1患者由来細胞中で、繰り返し回数の多いCUGリピートを、ほかの繰り返し回数の少ないCUGリピートに影響することなく、選択的に切断することが示された。繰り返し回数の少ないリピートは

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