MEDCHEM NEWS Vol.32 No.4
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3. Scripps FloridaとMatthew Disney lab2. 英語と研究、ミーティング185い創薬ターゲットへチャレンジできる風土に期待したからだった。世界にインパクトを与える新薬創出に携わりたい、アメリカならアカデミアでもインダストリーでもチャレンジできる可能性がより高いかもしれないと考えていた。そのなかで、幸運にもScrippsResearchInstitute(Florida)のMatthewDisney先生にお声がけいただく機会を得た。筆者も30代中盤を過ぎた辺りだったが、チャレンジするにはまだ十分!と自分に言い聞かせ、Scripps(Florida)にStaffScientist(permanentposition)として、移ることを決意した。 ScrippsResearchInstitute(Florida)には多様な研究者が世界の各地から集まっており、言うまでもなく共通言語は英語である。ラボの内外を見渡すと、アメリカやカナダ等の英語圏の研究者のほかに、中国、インド、イスラエル、ドイツ、日本等の研究者が数多く在籍し、英語が第1言語でないバックグラウンドをもつ研究者が少数派ではない印象を受ける。しかし、このような集団の中で、(残念ではあるけれど)日本人は英語でのコミュニケーション能力は相対的に高い方ではない気がした。筆者もそれまでに、英語学習に関しては1年間のアメリカでのメドケムでの研究生活(2015~2016年)に加えて、TOEICやIELTSのスコアビルディングを目指してシャドーイング(聴きながら発音するトレーニング)、ディクテーション(書き取り)、レシテーション(英文暗唱)を行い、意識的に時間を割いてきた(つもりだった)。が、ミーティング中の超高速議論になると、応戦するのが困難だった。現在から振り返ると1年間のアメリカ研究生活は、自分の英語学習にとっては不十分だったように感じる。今後、英語圏での研究を計画している方がいらっしゃったら、語学上達に関しては1年以上、なるべくなら2年くらいを目安にされた方がよいと思う。また、ほかのアジア圏の研究者(例えば、中国等)やインド系の研究者は(データの質自体は横においといて)、上手にプレゼンやディスカッションを行っているように感じたが、彼らは大学の科学系の授業そのものを英語で行っていて、自分達は慣れているからとのことだった。一方で、現在の日本の大学の授業は英語で実施されている割合は少なく、今後の科学系分野の英語による教育の割合を上げていくべきだと感じる。せっかくよいデータセットができたとしても、それを伝えて印象づけることができないのは非常にもったいない。もしも、今後英語環境で研究生活をする可能性があることがわかったら、できれば今日から学習を始めることをお勧めしたい。 また、もう1点述べたいのは、ミーティングでの研究者の参加姿勢である。日本ではミーティング中に全員が発言し、参加することは求められず、むしろコメントしないことがミーティングの進行を円滑にするにはよいといった雰囲気すら感じられる場面もある。一方で、Scrippsのラボでは、何も発言しないことはミーティングに参加していないのと同等の扱いであった。むしろアップデートのためのミーティングは自分のデータのアピールの場で、みんな自分のデータを精一杯印象づけようと努力していた。何も発言しないこと、スライドを用意しないことは何も実験、仕事していないことと同じで、結局何もやっていないのかといった扱いになってしまう。「きっと誰かが自分の仕事を見てくれている」というのは通用せず、「ちゃんと主張しないと何もやっていないことと一緒」である。また、研究者によっては、他人の仕事を自分がやった仕事のように印象づける不誠実な者もいないわけではないので、自分の成果を自分の言葉で伝えることは非常に重要なことである。Scrippsでの経験は、それまでの国内の製薬会社で、求められたときだけ発言するスタイルを変え、より積極的に発言してミーティングに貢献するマインドセットになったように感じられたし、米国で研究生活を送るにはこれが非常に重要であると感じられた。 スクリプス研究所(TheScrippsResearchInstitute;TSRI)は、米国最大級の非営利生物医学研究組織であり、カリフォルニア州サンディエゴとフロリダ州ジュピターと、米国の東西両海岸にその研究施設が位置している(フロリダキャンパスは、2022年にUniversityofFloridaと統合し、その名称をUFScrippsとしている)。筆者が研究生活を送ったのは、フロリダキャンパスの研究施設であり、ScrippsFloridaに隣接して、MaxPlanckFloridaInstituteforNeuroscience(MPFI)の研究棟とFloridaAtlanticUniversity(FAU)の施設が位置し、全体として巨大なアカデミックキャンパスを形成している。日常的にも研究者やスタッフの往来が盛んで、頻繁にFAUのランチブュッフェを利用したり、MaxPlanckの研究者交流イベントに参加したりでき

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