〔SUMMARY〕1.はじめに184MEDCHEM NEWS 32(4)184-189(2022)Keyword RNA binding small molecules, drug discovery, novel drug discovery targets, microsatellite disorders, tau pre-mRNA阿部正人Masahito Abe*1 日本国内の製薬会社でメドケム生活を送っていた(2018年)筆者は、メドケム自体(化合物をデザインして合成して評価してもらって)を進めることに加えて、次の創薬ターゲットの候補を探索して提案する取り組みに参加する機会があり、日々、合成デザインを考えるかたわら、創薬ターゲットに関して情報収集したり考えたりしていた。「それはケミストの仕事というよりはバイオロジスト、薬理部門や企画の仕事じゃないの?」と考える方が少なからずいらっしゃると思うが、それまでに経験していたアメリカでの研究生活(2015~2016年、VanderbiltUniversity,Tennessee)を通じて、アカデミアのケミスト(本当に優秀なケミスト)が多くのバイオロジーを理解し、paperを書き、自身のproposalでgrantを獲得している現状を目の当たりにして知ってい どの研究分野においても、最新の手法・技術・経験の共有のためグローバル化が望まれている。特に創薬研究においてインパクトの高い研究成果を求める場合、国内外を問わず複数の研究機関との協業が必要になっている。一方で、最近、低分子医薬品として、取り組みやすい創薬ターゲット、いわゆるlowhangingfruits(手が届きやすい果実)は減少し、新しい創薬ターゲットや創薬モダリティへの挑戦が望まれている現状がある。このような状況のなか、日本国内の製薬会社でメディシナルケミストとして研究生活を送っていた筆者は、オリジナリティの高い創薬ターゲットとそれが実現可能な研究環境を求めて、アメリカのアカデミアに移ることになった。本コラムでは、筆者がScrippsのStaffScientistとして経験したこと、研究環境に関する日米産学の違いに関して、私見を交えてご紹介したい。Inanyresearcharea,globalizationisnecessaryforsharingthelatesttechnologyandknowledge.Inparticular,toachievesignificantresultsindrugdiscovery,globalcollaborationamongmultipleresearchinstitutesisrequired.Meanwhile,therearefewereasydrugdiscoverytargets,commonlyreferredtoaslowhangingfruit,fordevelopingsmallmoleculedrugs;therefore,noveldrugdiscoverytargetsandmodalitiesarerequired.Caseinpoint,Iwasworkingasamedicinalchemistforadomesticpharmaceuticalcompany,butIdecidedtomovetotheUSwiththegoalofworkinginaresearchenvironmentfocusedondiscoveringnoveldrugdiscoverytargetsandnewstrategiestotargetthem.Inthiscolumn,IwillelaborateonmyresearchexperienceasastaffscientistatScrippsandthedifferenceofresearchenvironmentbetweenindustry/academiainJapanandtheUSandgivemypersonalopiniononthesedifferences.たので、同じくケミストの自分にもチャンスがあるのではないか?と感じて(錯覚して)労を惜しまなかった。幸運にも、いくつかのプロジェクトは提案できたものの、もちろんすべての提案がプロジェクトになるわけではなく、むしろ結構苦戦することの方が多かった。常に議論になるのはテーマの新規性とevidenceのバランスだったように感じた。Evidence豊富なターゲットは世界中ですでに競争が始まっていて参入のタイミングが遅くなってしまうし、かといって新規過ぎるターゲットに関してはevidenceが少なく、投資対象になり得るかの判断が難しい。この点を米国のアカデミアとインダストリーが両立できている印象を受け、魅力に感じていた。もしかしたら、自分にとってはアメリカの方がより興味深い創薬ターゲットに出会える可能性が高いのではないか?と考えていた。加えて、製薬会社やアカデミアへの積極的な投資とベンチャーファンドの文化があり、evidenceがそこそこの新規な創薬ターゲット、新規モダリティにも積極的にチャレンジできる風土がある。アメリカでポジションを探ったのは、オリジナリティの高*1 Drug Discovery Scientist, Warren Center for Neuroscience Drug Discovery at Vanderbilt UniversityWhat I experienced at Scripps aiming to challenge highly original drug discovery seedsオリジナリティの高い創薬シーズを求め、 Scrippsで経験したこと
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