ささき しげき1977年 東京大学薬学部卒業1982年 東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了(薬学博士)1982年 アメリカ合衆国インディアナ大学博士研究員1984年 東京大学薬学部助手1990年 九州大学薬学部助教授2002年 九州大学大学院薬学研究院教授2006年 日本学術会議連携会員2010年 日本学術振興会システム研究センター研究員2015年 日本核酸医薬学会初代会長2019年 (株)RINAT Imagingチーフテクノロジーオフィサー2020年 九州大学定年退職名誉教授2020年 長崎国際大学薬学部薬学科教授・研究科長2021年 日本薬学会会頭173年4回2、5、8、11月の1日発行 32巻4号 2022年11月1日発行 Print ISSN: 2432-8618 Online ISSN: 2432-8626長崎国際大学 大学院薬学研究科 研究科長日本薬学会 会頭佐々木 茂貴 この原稿の執筆時は、新型コロナウイルスのオミクロン変異株による第7波の感染者数の更新が続いている。2020年に感染拡大が始まったときは、これほど長く繰り返されるとは想像できなかった。世界には出遅れたものの、わが国でもmRNA医薬や抗ウイルス薬の開発が活発化している。 日本の研究力は長い凋落傾向にあることが指摘されている。日本学術会議は、学術振興を目的に、従来のトップダウン形式とは違い、科学者コミュニティからのボトムアップ形式で、学術研究の中長期的「グランドビジョン」の策定作業を始めた。研究者個人・団体に向けて、今後20~30年先を見通した学術振興の「ビジョン」と、その実現のために今後10年程度で実施する「学術研究構想」が公募されている。日本薬学会は、この機に「薬学」の未来ビジョンを策定すべく、医薬化学部会にもご協力を仰ぎ、薬学「ビジョン」と「学術研究構想」の策定を進めている。 創薬は、化合物の活性評価が中心の時代から、標的と化合物との錯体のMD計算による薬物設計、ビッグデータを活用したAI創薬へと進化の途中である。では、その先にはどのような「創薬ビジョン」があるだろうか。 20~30年先を見通すために、20~30年前の状況を振り返ると、すでにインターネットやスマートフォンのプロトタイプは存在していた。遺伝子配列にもとづく治療法や治療薬の開発・選択といった最先端医療の源流は、1990年以前の遺伝子解析技術の進歩と、そこから進化したヒトゲノムプロジェクトにたどり着く。大規模化合物ライブラリーを用いたハイスループットアッセイ、計算化学による阻害剤設計などの創薬手法、抗体医薬、核酸医薬やmRNA医薬もすでに実用化研究は始まっていた。このように見ると、未来ビジョンは、現在の延長線上であり、現在の要素技術の革新とその融合により実現されていくと考えられる。 近年、創薬標的として注目されているRNA分子は、細胞内ではタンパク質と複合体を形成しており、その組成と立体構造は、ダイナミックに流動的に変化する。しかもその変化は、DNA、タンパク質、脂質粒子、代謝産物などが超過密状態で存在している細胞内微細構造に影響を受ける。現在、細胞内の詳細な構造と動的活動は、クライオ電子顕微鏡などの最先端技術で解明されつつある。20~30年後は、これらの知見が蓄積された莫大な科学論文のAI分析と超高速計算により、細胞のデジタル空間が精密に再現され、流動的に変化する標的に対するさまざまな医薬モダリティの分子設計が可能になると想定される。複雑かつ巨大で、経時的に大きく構造変化する複合体を標的にできれば、現在の手法では達成できない、革新的な医薬品の開発につながる可能性が期待される。皆様方には、創薬や薬学に関して、多様な未来ビジョンを想定し、その実現のために必要な学術研究、技術革新、および分野融合を含む壮大な構想のご提案をお願いしたい。Shigeki SasakiGraduate School of Pharmaceutical Sciences,Nagasaki International UniversityPresident of Pharmaceutical Society of JapanCopyright © 2022 The Pharmaceutical Society of Japan公益社団法人 日本薬学会 医薬化学部会NO.4Vol.32 NOVEMBER 2022創薬の将来ビジョンとその実現のための研究構想
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