MEDCHEM NEWS Vol.32 No.3
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2. 特発性肺線維症(IPF)疾患データベースの120図1 特発性肺線維症(IPF)疾患データベース(神奈川コホート)概略タベースの構築およびデータ駆動的な創薬標的探索に資するAIの開発を行ってきた。また、本事業が平成30年にPRISMに採択されてからは、対象疾患として肺がんが加わり、総勢15機関が連携しながら創薬標的探索プラットフォーム(疾患データベースおよび解析用AI)の開発と、それらをアカデミア・企業等に幅広く公開するためのオープンプラットフォームの構築に取り組んでいる。 本稿では、多岐にわたるPRISMの取り組みの中から、NIBIOHNと神奈川県立病院機構 神奈川県立循環器呼吸器病センター(以下、神奈川循呼センター)が共同で構築しているIPF疾患データベース(神奈川コホートデータベース)について詳しく解説する。さらに、PRISMで開発した種々のAIアルゴリズムを公開しているオープンプラットフォームについても併せて紹介したい。 神奈川循呼センターでは、平成27年11月から間質性肺炎センターを開設し、全国各地から毎年500名を超える間質性肺炎の新規外来患者を迎え、経験が豊富な医師を中心に各専門職種が連携して患者の診療に取り組んでいる。間質性肺炎(Interstitial pneumonia:IP)は、肺の間質を中心に炎症や線維化が起こる肺疾患の総称であり、関節リウマチ等の膠原病、薬剤や吸入物質など、原因が明らかなものもあるが、多くは原因が特定できない特発性間質性肺炎(Idiopathic interstitial pneumonias:IIPs)と呼ばれ、国の難病に指定されている。IIPsに属する病型の中でも、IPFは肺において不可逆的な線維化が進行する難治性かつ予後不良な疾患である。IPF治療には2種類の抗線維化薬、すなわち「ピレスパ」(ピルフェニドン)および「オフェブ」(ニンテダニブ)が使用されているが、複雑で多様な経過をたどるIPFの治療には、さらなる画期的新薬の創製が待ち望まれる。 神奈川コホートデータベースは、IPFの病態理解、創薬標的やバイオマーカーの探索等に有用であると考えられる多種多様な情報・データを集積している(図1)。本データベースの特徴としては、(1)IPFを含む間質性肺炎と診断される患者の臨床情報(診療情報+オミックスデータ)を幅広く収集していること、(2)全症例に対して診断名(どのタイプの間質性肺炎か)を付していること、(3)複雑な病態と関係する分子ネットワーク異常の解明が可能となるよう、末梢血のみならず病変部である肺組織からも可能な限り多階層のオミックスデータを収集していることがあげられる。(1)については、試料・情報・データの収集にあたり、間質性肺炎患者に対して文書を用いた説明により二次利用可能な同意を取得している。その上で、間質性肺炎の病態解明に有用と考えられる200以上の診療項目(表1)を収集している。(2)については、神奈川循呼センターにおいて間質性肺炎診断の経験豊富な呼吸器内科医、病理医、および放射線 科医による集学的検討(Multidisciplinary Discussion:MDD)によって決定した診断名を各症例に対して付与している(図2)。その内訳は、IPFは全体の32%であり、過敏性肺炎(Chronic hypersensitivity pneumonitis:構築

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