MEDCHEM NEWS Vol.32 No.3
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東京理科大学薬学部160MEDCHEM NEWS 32(3)160-161(2022) 研究が煮詰まったとき、気分転換はとても大切です。私の趣味は、自作の竹笛でバロック音楽を演奏することです。笛を吹くときは、他のことは一切考えず、音楽に集中しますから、本当によい気分転換になります。笛を吹いた後は気分もすっきりしてよいアイディアが浮かびます。そして、音楽は私に生きる喜びと活力を与えてくれます。自分の欲しい音のために笛をつくり、自分の奏でたいメロディを演奏する。こんな贅沢な趣味は他にはありません。本稿では趣味の竹笛について紹介します。 だいぶ昔のことになりますが、子供の夏休みの工作で、竹細工を手伝ったのがきっかけで竹笛の製作を始めました。残った竹材に穴を開けて横笛を作ったところ、思った以上に良い音が出たので、本格的に竹で笛を作ってやろうと思い立ちました。凝り性の私は、どうせ作るなら世界に1本しかない、オリジナルの笛を作ってやろうと決心し、竹の種類、太さ、指穴と歌口の位置や大きさ、運指法、竹の加工法、塗布する油の種類などを徹底的に研究しました。特許が取得できるほどのノウハウです(笑)。以来、竹笛づくりにはまってしまい、余暇のほとんどすべてを竹笛の製作に費やしました。毎週、日曜日になると、ひたすら竹に穴を開けてはピーピーと騒音を出すわけですから、当然、家族の大ひんしゅくを買いました。しかしやめられません。これは研究と同じで、竹に穴を開けて音を出す。穴の大きさや位置を変えると結果が変わり、より良い音が出る。これは化学の実験を行い、結果を考察して次の実験を計画するのとまったく同じで、とてもわくわくするプロセスです。早く次の「実験」をして結果を知りたいという欲求は何よりも強く、納得できる笛ができるまでこのサイクルは続きました。笛を作り始めて1年で100本くらい作ったでしょうか。ようやく満足できるオリジナルの笛が完成しました(写真1)。 何の変哲も無い、ひと節の竹に7つの指穴と歌口を開けただけのシンプルな横笛ですが、これまでには無い、まったく新しいコンセプトに基づく西洋音階の笛ができあがりました。運指はバロック式のリコーダーやフラウト・トラヴェルソに似ていますが、リコーダーよりも音域は広く、約3オクターブの音が出せます。運指を工夫することで半音階も自在に演奏でき、なんと、私の大好きなバッハのフルートソナタを比較的容易に演奏することができました。そこで、バッハのフルート、ヴァイオリン、チェロ、チェンバロのために書かれた作品を次々に編曲して吹きまくりました。編曲した楽譜は、当初楽譜作成ソフトで製作していましたが、何とも味気ないのです。そこで、バッハの芸術的な自筆譜を徹底的に研究し、その書体をまねてカリグラフィーペンで楽譜を書くようになりました。これには書道やカリグラフィーのような趣があり、美しい楽譜を書くこと自体が楽しみになりました(写真2)。 オリジナルの竹笛に勝手に名前を付けました。東風笛写真1 自作の竹笛(東風笛)写真2 編曲した楽曲の自筆譜和田 猛Coffee Break自作の竹笛でバッハを奏でる

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