MEDCHEM NEWS Vol.32 No.3
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4. おわりに153AUTHOR 細胞膜のダイナミックな動きを誘起しつつ膜を不安定化するというL17Eのユニークな細胞内抗体送達機序と、蛍光標識した抗体とL17Eの3量体とにより形成される液滴の2つの要因が重なって、抗体の細胞内への一気注入が誘起できることがわかった。効率的にも目覚ましいものであり、液-液相分離の薬物送達への応用という観点からは非常に興味あるものと考える。一方で、この方法をすぐさまin vivoに応用できるかと考えると、現時点ではまだまだ解決しないといけない問題が多い。1つは、液滴のサイズである。今回、抗体の細胞への一気注入を可能とした液滴を顕微鏡観察すると直径数μm程度のものが主であることがわかる。このサイズでは血流を介した送達は難しいと考えられ、これより小さい液滴が形成可能であるか、また、細胞内への抗体の送達機能を保持するかに興味がもたれる。また、どれだけ均一な大きさの液滴が調製でき、形状や物性を安定に保てるかも課題である。液滴の細胞内送達への応用に関しても徐々に報告されてきてはいるが10~12)、現時点で数は必ずしも多くはない。今回の研究で示されたように、液滴を上手に使うことで、今までにない画期的な送達系の樹立が可能になるかもしれない。期待を胸に、このコンセプトを活かせる送達技術の開発を今後も進めて行きたいと考えている。謝辞 本研究はJSPS科学研究費補助金(JP18H04017, JP20H04707, JP21H04794)とJST CREST(JPMJCR18H5)の支援を受け実施されました。創薬エコシステム/エコシステム創薬 革新的な創薬を実現するために、産官学を含めたプレイヤーとして、アカデミア、ベンチャー企業、大手製薬企業、行政、金融機関などがお互いに連携し合うことによって、新たな産業創造を推進していくこと。創薬基盤としてアカデミアの基礎研究力を活用し、企業への技術移転によって次世代の新薬開発に結び付けていく。そのために必要な人材、資金、インフラなどが相互に連動しながら成長するために必要とされているビジネスの在り方。 参考文献 1) Goswami R., et al., Trends Pharmacol. Sci., 41, 743‒754 (2020) 2) Akishiba M., et al., Nat. Chem., 9, 751‒761 (2017) 3) Iwata T., et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 60, 19804‒19812 (2021) 4) Nakase I., et al., Biopolymers, 94, 763‒770 (2010) 5) Akishiba M., Futaki S., Mol. Pharm., 16, 2540‒2548 (2019) 6) Guha, S., et al., Chem. Rev., 119, 6040‒6085 (2019) 7) Takeuchi T., Futaki S., Chem. Pharm. Bull., 64, 1431‒1437 (2016) 8) Sakamoto K., et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 59, 19990‒ 19998 (2020) 9) Yang H., et al., J. Pept. Res., 66, 120‒137 (2005)10) Sun Y., et al., Nat. Chem., 14, 274‒283 (2022)11) Black K.A., et al., ACS Macro Lett., 3, 1088‒1091 (2014)12) Zhou L., et al., Macromol. Rapid Commun., 41, e2000149 (2020)二木史朗(ふたき しろう)1983年 京都大学薬学部卒業1985年 京都大学大学院薬学研究科修士課程修了1987年 同博士後期課程中退同 年 徳島大学薬学部助手1989年 薬学博士(京都大学)同 年 米国ロックフェラー大学博士研究員1993年 徳島大学薬学部助教授1997年 京都大学化学研究所助教授2005年 京都大学化学研究所教授現在に至る広瀬久昭(ひろせ ひさあき)2007年 京都大学薬学部卒業2009年 京都大学大学院薬学研究科修士課程修了同 年 日本学術振興会特別研究員(DC1)2012年 京都大学大学院薬学研究科博士後期課程修了、博士(薬学)同 年 フランス国立科学研究センター分子細胞薬理学研究所博士研究員2015年 東京大学大学院理学系研究科特任研究員2016年 日本学術振興会特別研究員(PD)東京大学大学院理学系研究科2019年 京都大学化学研究所特定准教授現在に至る曽山明彦(一般社団法人ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン)Copyright © 2022 The Pharmaceutical Society of JapanCopyright © 2022 The Pharmaceutical Society of Japan用語解説

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