MEDCHEM NEWS Vol.32 No.3
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体抗孔膜核抗飾修495axeA体抗ルーロトンコ飾修495axeAll152図3  液滴による抗体の細胞内注入の想定機序Fc(L17E)3とAlexa488-IgGを混合すると液滴が形成され、これが細胞膜と接するとL17Eの作用により細胞膜の波打状態が誘起されるとともに、膜が不安定化され、抗体が細胞内に一気に流入する。図4  Fc(L17E)3との液滴形成によるAlexa594標識した核膜孔複合体に対する抗体の細胞内導入(上段左)Alexa594標識抗核膜孔抗体の細胞内移行と核周辺への集積;(上段中・右)上段左の四角で囲った部分の拡大像。Hoechst染色した核(上段右)の周辺部に抗体のAlexa594シグナルの集積が認められる(上段中)。一方、コントロール抗体(下段)では核周辺にAlexa594シグナルの顕著な集積は見られない。(文献3, Figure 6を改変転載)Alexa594HoechstL17Eを単独に用いる場合の1/10以下のIgG量で、同程度の効率での細胞内送達を達成した。 ところが、である。L17E(単量体)とAlexa488-IgGとを混合して細胞に投与すると、投与後5分程度で細胞内(サイトゾル)へのAlexa488-IgGの移行が認められるが(前項参照)、FcB(L17E)3とAlexa488-IgGの混合物を投与した際のAlexa488-IgGの細胞内移行様式はまったく異なるものであった。共焦点顕微鏡で観察を行うと、投与後、20~30分後に強い蛍光シグナルを発する液滴が視野に現れ、この液滴が細胞の辺縁部と接す ることで、抗体のシグナルが細胞内に一気に拡散する(図2B;参考文献3のSupporting Video 1も参照)3)。時間としてわずか1分間足らずの現象である。 詳細な検討の結果、FcB(L17E)3とAlexa488-IgGの混合により液-液相分離が誘起されること、これには両者を比較的高濃度でプレインキュベーションすることが必要であること、液滴形成には抗体のAlexa蛍光色素による修飾が重要(負電荷を有するAlexa色素と正電荷を有するL17Eの静電相互作用が重要)であること、FcBP配列はFc領域との結合というよりも液-液相分離の際の疎水性相互作用の増強という観点から重要であることなどが明らかになった(図3)。また、FcB(L17E)3とAlexa488-IgGの混合により生じた液滴が細胞膜と 接すると、液滴中のFcB(L17E)3の相互作用により細 胞膜の波打が誘起されることや、この波打った膜に FcB(L17E)3が作用することで、抗体の細胞内流入が起こることが示唆された。この膜の動きを阻害する条件下では、液滴からの抗体の細胞内への流入は顕著に阻害される。また、L17Eとアミノ酸組成は同一であるが、抗体の細胞内送達能をもたないL9Eペプチドの3量体を用いて同様の実験を行ったところ、液滴は形成されるが、抗体の細胞内移行は見られない。つまり、液滴ができればよいというわけではなく、細胞膜の波打状態を誘起し、適切に細胞膜構造を一過的に撹乱するペプチドとの組合せが、抗体の細胞内移行に重要であると考えられる。FcB(L17E)3との液滴形成により細胞内に導入されたAlexa594修飾した核膜孔複合体に対する抗体は細胞内での標的タンパク質を認識できる、すなわち抗体の認識能を保持したまま細胞内に導入できることもわかった(図4)。Alexa標識IgGのみならず、負に荷電した緑色蛍光タンパク質((-30)GFP)やそれと融合したタンパク質もFcB(L17E)3との混合により液滴を形成し、細胞内に移行することも見出された。

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