(A)Fc(L17E)3とAlexa488-IgGとの複合体を用いることにより、効果的な細胞内送達を達成するのに必要なAlexa488-IgG量を、L17E(単量体)を用いた場合の1/10に低減することが可能であった。細胞全体に広がったAlexa488のシグナルはIgGがサイトゾル全体に分布していることを示す。(B)Fc(L17E)3とAlexa488-IgGをプレインキュベーションし、細胞培養液に加え、一定時間経過すると、蛍光強度の高い球状構造物(抗体が濃縮された液滴、矢尻と矢印で示す)が細胞周辺に観察され、これが細胞膜に接すると(25min 20sec、矢尻)、短時間での抗体の細胞内流入・サイトゾル全体への分布が達成される(26min)。(文献3, Figure 2を改変転載)AB3. L17Eの3量体と抗体による液滴形成と細胞151図2 Fc(L17E)3の細胞内送達と細胞内流入と分布あれば、この孔を通って細胞内のタンパク質や核酸も流出するはずであり、細胞にとって大きなダメージとなるはずである。しかし、L17Eの細胞毒性はそれほど高くない。また、細胞のATP産生を抑制する条件下では、L17Eによる細胞内への送達は見られない。これらのことから、L17Eは細胞膜に単純に孔をあけるのではなく、L17Eによる細胞内送達には何らかの生理的要因が関係していると考えられる。 L17Eの作用様式に関しては今後のさらなる検討が必要ではあるが、L17Eによって細胞膜あるいは初期のエンドソーム膜に一過的に開口部を生じ、抗体がこれを通って細胞内に流入することを1つの可能性として筆者らは考えている。従来の薬物の細胞内移行経路としては、薬物の細胞膜への分配などを介する直接透過(非エネルギー依存的)とエンドソーム成熟化に伴うpH低下に呼応してエンドソーム脱出を達成する経路(エネルギー依存的)の2つが考えられてきた7)。L17Eによる抗体の細胞内移送はエネルギー依存的であるにもかかわらず、後者の経路の寄与が小さいことが示唆され、当初想定していた細胞内移行様式には必ずしも当てはまらないのではないかと考えている。なお、L17Eのもつ送達機能に加え、pH低下によるエンドソームからの脱出能を高めた改良型ペプチド(HAad)も筆者らは報告している8)。 L17Eの抗体の主な細胞内送達様式は、設計時に意図したものとは若干異なることがわかったが、サイトゾルへの抗体送達という観点からは、他の方法と較べて画期的なものであった。この抗体送達は、抗体とL17Eが同時に同一細胞に作用することで成立するものである。次のステップとしてのin vivoへの展開を考える際に、抗体とL17Eの体内動態の違いから、これらを静脈に投与しても、両者が同時に同一組織の同じ細胞に達するという考えは現実的ではない。そこで、抗体とL17Eをコンジュゲーションするか、あるいは安定な複合体を形成させて送達することが方策として考えられる。抗体とL17Eの化学的なコンジュゲーションを考えたとき、抗体へのL17Eの導入位置や導入数を制御することは難しい。一方、ファージディスプレイ法などを用いて得られたIgGのFc領域と相互作用するペプチド(FcBP)が知られており、これらのペプチドとL17E(あるいはその類縁体)とのコンジュゲートを作製すれば、導入位置や導入数は制御可能である。膜と相互作用するペプチドは膜上で会合することで作用を発揮するものが多いことから、L17Eの多量体を用いることで抗体の細胞内への移行効率の向上が期待できるかもしれない。以上の点に加え合成の容易さを考慮し、Yangらにより報告されている6アミノ酸のFcBP(HWRGWV)9)と、L17Eの3量体とのコンジュゲートFcB(L17E)3を作製した。細胞内への抗体の移行を確認するために、IgGをAlexa Fluor 488で標識した(Alexa488-IgG)。FcB(L17E)3とAlexa488-IgGをプレインキュベーションし、培養細胞に加えたところ、約半数の細胞において、細胞全体に均一に広がった(つまり、サイトゾルへの移行を示唆する)Alexa488-IgGのシグナルが観察された(図2A)3)。内抗体一気注入
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