150図1 L17Eペプチドの設計概念L17Eは、両親媒性のクモ毒M-lycotoxinの疎水性アミノ酸(ロイシン)を負電荷アミノ酸(グルタミン酸)に置換することによって、細胞表面での膜傷害を抑制しつつ、エンドソーム内の酸性pHに呼応してエンドソーム膜を破壊することを想定して設計された。開発されてきた1,4)。エンドソーム膜だけでなく、細胞表面の膜(細胞膜)も乱されると、細胞は大きなダメージを受ける。これを考慮し、エンドソーム内の低pHに呼応して膜傷害性を発揮する種々の分子設計がなされてきた。しかし、抗体などの高分子量タンパク質の細胞内送達を考えたとき、従来のアプローチを用いた場合のエンドソーム脱出効率は満足できるものではなかった。 筆者らは、塩基性と疎水性のクラスターを併せもち、強い膜構造破壊性を示す両親媒性ペプチドの膜傷害能を適切に調節できれば、新規の細胞内抗体送達ペプチドとして活用できるのではないかと考えた。この発想の下にクモ毒由来の溶血ペプチドM-lycotoxinの疎水性アミノ酸を酸性アミノ酸(グルタミン酸)に置換したL17Eペプチドを開発した(図1)2)。L17Eと蛍光標識した抗体を細胞培養液に添加すると、約50%の細胞において、細胞全体に分布した抗体由来のシグナルが観察された。この結果は、L17E存在下に抗体が効果的にサイトゾルに送達されることを示す画期的なものであった。さらに、抗体による細胞内タンパク質の認識やシグナル伝達の調節が可能であることも例示された。 分子設計におけるそもそもの発想は、細胞表面ではグルタミン酸が負に帯電するために膜と強く相互作用できないが、エンドソーム内の酸性環境ではグルタミン酸のカルボキシ基が分子型(非解離型)となることで、膜傷害性が回復し、エンドソーム内に取り込まれたタンパク質をサイトゾルに放出するというものであった(図1)。ところが、L17Eによる抗体の細胞内への送達様式を詳細に検討したところ、L17Eと抗体を細胞培養液に添加後、わずか5分程度で細胞内への抗体の送達は達成された5)。エンドソーム内のpHは経時的に低下することから、L17Eが当初想定した様式で作用するのであれば、抗体のサイトゾル移行量は経時的に増加するはずである。しかし、さらに時間が経過しても抗体の細胞内(サイトゾル)移行量の増加はほとんど見られなかった。このことから、L17Eは当初予想したエンドソーム内の酸性化を待つことなく、抗体を細胞内に送達できる可能性も示唆される。抗菌ペプチドや溶血ペプチドの多くは膜と相互作用することによって細胞膜構造を破壊する6)。同様の機序で、L17Eが抗体の通過を可能にする大きさの開口部や構造の乱れを細胞膜に持続的に形成するので
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