〔SUMMARY〕1.はじめに2. クモ毒の改変により得られた細胞内抗体送MEDCHEM NEWS 32(3)149-153(2022)149Keyword antibodies, intracellular delivery, liquid droplet, liquid-liquid phase separation (LLPS), attenuated cationic amphiphilic lytic peptides*1 京都大学 化学研究所 教授 *2 京都大学 化学研究所 特定准教授 二木史朗Shiroh Futaki*1・広瀬久昭Hisaaki Hirose*2 創薬モダリティとしての抗体・タンパク質が脚光を浴びている。この理由の1つとして、これらの分子が従来の低分子医薬品ではカバーできなかった創薬ターゲットにも対応可能であることがあげられる。これらは、タンパク質中のアミノ酸・官能基により、小分子に比して多くの認識点をもちうることで、より広範囲で精密な標的認識が可能となる。これまでに種々の抗体医薬品が開発される一方、現在市販されている抗体医薬品のほぼすべては、血中や細胞外因子を標的とするものである。細胞内には数多くの魅力的な創薬標的が存在するが、抗体やタンパク質は親水性が高くかつ分子量が大きいので、簡単には細胞内に移行しない。抗体・タンパク質を効率 的・効果的に細胞内に送達する方法が樹立できれば、医薬品開発の点から大きな波及効果が期待できる。また、これらの手法は細胞生物学の基礎研究や創薬支援研究にも有益である。 小型タンパク質やペプチドの細胞内導入には、膜透過ペプチドとのコンジュゲーション、あるいは脂質やポ リマーからなるナノ粒子に内包させるアプローチが多 く試みられてきた1)。しかし、抗体(たとえばIgGは 筆者らの研究グループでは、クモ毒由来の溶血ペプチドM-lycotoxinのアミノ酸を改変したL17Eペプチドを用いて、抗体などのタンパク質を細胞内送達できることを報告している。L17Eの3量体と抗体のFc領域結合ペプチドとのコンジュゲート[FcB(L17E)3]を作製し、蛍光標識した抗体と混合することによって液-液相分離が誘起された。生じた液滴が細胞膜と接すると、細胞内への顕著な抗体シグナルの流入が観察された。Our research group developed the L17E peptide, which is a modified peptide of spider venom, M-lycotoxin, for intracellular delivery of proteins including antibodies. The liquid-liquid phase separation was induced by mixing the conjugate of the trimer of L17E with a Fc-binding peptide [FcB(L17E)3] with a fluorescently labeled antibody. When the generated liquid droplets contacted the cell membrane, a marked influx of antibody signals into cells was observed. 150kDa)のような高分子量のタンパク質を細胞内に導入しようとするときには、一層の細胞内への導入効率の向上が必要となる。この観点から筆者らは細胞内抗体導入ペプチドL17Eを創出した2)。次のステップとしてのin vivoでの適用を視野に、L17Eの3量体と抗体の複合体の調製を試みた。この過程で、二者の混合により液-液相分離による液滴が形成されることを偶然に見出した3)。驚くべきことに、この液滴が細胞膜と接すると、液滴の構成成分である抗体が瞬時に細胞内に注入されることがわかった。本稿では、液-液相分離に基づく新しい細胞内送達概念としてこれを紹介する。 タンパク質をはじめとする高分子薬物の細胞内送達は、エンドサイトーシスを利用するのが一般的である。エンドサイトーシスは、細胞の外界からの養分などの物質取込経路の1つであり、外界からの物質はエンドソームと呼ばれる膜小胞に内包される形で細胞内部に運び込まれる。エンドソーム内に保持されたままだと細胞内の分解系に運ばれてしまう。したがって、細胞内に送達する高分子薬物が所望の細胞内活性を発揮するためには、適切なタイミングでエンドソームを脱出し、サイトゾルに移行することが求められる。このために、エンドソーム膜を撹乱する分子(高分子・脂質・ペプチドなど)がProfessor, Institute for Chemical Research, Kyoto UniversityProject-specific Associate Professor, Institute for Chemical Research, Kyoto UniversityIntracellular macromolecule-delivery peptide inducing liquid-liquid phase separation達ペプチドL17E液-液相分離を誘起する高分子細胞内送達ペプチド
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