MEDCHEM NEWS Vol.32 No.3
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3. 小分子に応答して標的タンパク質を放出す細胞142図2  SPREC-InシステムSPREC-In共発現させる。FKBPとFRBは、小分子ラパマイシンの存在下で(のみ)ヘテロ二量体を形成する。したがって、初期状態では、標的タンパク質は細胞質を一様に拡散し、活性状態にある。そこへラパマイシンを添加すると、FKBPとFRBの二量化によって標的タンパク質を人工相分離ドロップレット内に急速に(1分以内に)取り込むことができる。実際にこのSPREC-Inシステムをさまざまなタンパク質に適用したところ、およそ120kDaの分子量をもつ巨大タンパク質でも90%以上の効率で人工相分離ドロップレット内に取り込むことが可能であった。このことは本システムの高い汎用性を示している。 さらに筆者らは、SPREC-Inシステムがシグナルタンパク質の不活性化に利用できるかどうかを検証した。低分子量Gタンパク質Racの活性化因子(グアニンヌクレオチド交換因子)であるVav2に本システムを適用したところ、FKBPを融合したVav2を人工相分離ドロップレットに取り込むことで、細胞の葉状仮足形成やラッフリングといった膜ダイナミクスを急速に止めることが可能であった。また、FKBPを融合したSosを人工相分離ドロップレットに取り込むと、Sos活性が隔離され、下流のRas/ERK経路の不活性化が誘導された。今後、よりさまざまなタイプのタンパク質の活性制御を検討する必要があるものの、以上の成果は、SPREC-Inシステムが望みのタイミングで標的タンパク質の隔離と不活性化を誘導する新規化学遺伝学ツールとなることを示して いる。 細胞はシグナルタンパク質の連鎖的な活性化を通じて情報伝達を行い、増殖、分化、運動などの細胞応答を引き起こす。そのため、細胞内の特定のタンパク質の活性化を誘導するツールは、情報伝達を人為的に操作して細胞の機能や運命をコントロールする基盤技術となる。そこで筆者らは、SPRECの方法論を拡張することで、任意のタンパク質をあらかじめ人工相分離ドロップレット内に隔離しておき、それを小分子の添加によって素早く細胞質へ放出して活性化することのできる「SPREC-Out」システムを創製した4)。その分子設計を図3に示す。本システムでは、標的タンパク質を人工相分離タンパク質PB1-AG-FRBのC末端にTEVプロテアーゼの切断配列(ENLYFQ/L)を介して融合する。これをPB1-AGおよび、FKBPを融合したTEVプロテアーゼ(FKBP-TEVp)と共に細胞に発現させる。すると、標的タンパク質は人工相分離ドロップレット内に封入された状態で発現し、FKBP-TEVpは細胞質を拡散した状態となる。そこへラパマイシンを添加すると、SPREC-Inの原理に基づいてFKBP-TEVpが人工相分離ドロップレット内に取り込まれる。すると、FKBP-TEVpが近接効果によってTEVプロテアーゼ切断配列を効率よく切断し、標的タンパク質が人工ドロップレットから細胞質へ放出される仕組みとなっている。このSPREC-Outシステムを用いると、小分子ラパマイシン添加後10~ 20分のうちに標的タンパク質の細胞質濃度を3~10倍増加させることが可能であった。細胞質濃度の変化量としてはあまり大きくないように見えるが、細胞内情報伝達る人工相分離ドロップレット

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