a)これまでに開発された人工相分離ドロップレットシステム。小分子(薬剤)、光、温度に応答してタンパク質の隔離と放出が誘導できるシステムが報告されている。b)標的タンパク質の隔離・放出による情報伝達制御の概念図。2. 小分子に応答して標的タンパク質を取り込141図1 人工相分離ドロップレットによるタンパク質活性の隔離と放出の概念図abな汎用的アプローチに思えるかも知れない。しかし実際には、小分子や光に応答してその活性状態が大きく変化するようなタンパク質を設計・創製するのは容易ではなく、多くの場合、かなりの試行錯誤を要する。これはひとえに、タンパク質はそれぞれ構造、機能、機能発現機構が多様であり、さまざまなタンパク質の活性制御に適用できる普遍的な設計原理というのがこれまで考案されていないことに起因する。さまざまなタンパク質の活性制御を実現する汎用的な化学遺伝学・光遺伝学アプローチを開発することができれば、生命科学や創薬研究の大きなブレイクスルーになるものと期待される。 近年、細胞はタンパク質やRNAなどの生体分子を自己集合・相分離させることで液滴やゲル状のドロップレットをつくり、そのドロップレットを“場”(メンブレンレスオルガネラ)として、さまざまな生命現象を制御していることが明らかとなってきた3)。いわゆる相分離生物学である。特に興味深い点として、ドロップレットはその内部に特定のタンパク質を取り込むことで、その活性を抑制することが知られている3)。したがって、もし細胞内に完全人工のドロップレットを構築し、その内部に任意のタンパク質を特異的に取り込むことができれば、そのタンパク質は周囲から隔離されることで不活性状態となるであろう(図1)。また逆に、タンパク質をドロップレットから細胞質へ放出すれば、本来の機能を発現するようになる(活性状態になる)ものと期待される。このような隔離と放出に基づいた原理であれば、タンパク質の種類や構造を問わず、さまざまなタンパク質の活性を簡便かつ高汎用的に制御できるかも知れない。このような着想のもと、筆者らは、細胞内の任意のタンパク質を小分子や光によって隔離あるいは放出することの できる人工相分離ドロップレット「SPREC(synthetic protein-recruiting/releasing condensates)」を考案・開発した4)。本稿では、SPRECシステムの概要について紹介し、生命研究・創薬研究ツールとしての可能性について展望を述べる。 相分離の基本原理は、タンパク質間の多点(多価)相互作用による濃縮効果である。そのため、多点での分子間相互作用が可能なタンパク質を設計できれば、そのタンパク質は細胞内で自己集合・相分離しドロップレットを形成する(実際にはその物性制御にはより精密な設計が必要であるが、本稿では割愛する)5)。この設計指針を利用して、筆者らはまず、小分子に応答して特定の標的タンパク質を取り込むことのできる人工相分離ドロップレット「SPREC-In」システムの開発に取り組んだ (図2)4)。小分子応答能を有する人工相分離タンパク質として、ホモオリゴマーを形成するPB1ドメインと四量体を形成する緑色蛍光タンパク質AzamiGreen(AG)、そしてタンパク質FRBをタンデムに連結した融合タンパク質(PB1-AG-FRB)を設計した。これをヒト由来の細胞に発現させると、PB1ドメインとAGを介した多点相互作用により相分離し、FRBを内包したゲル状の人工相分離ドロップレットを細胞内に構築することができる。一方、活性を制御したい標的タンパク質にはタンパク質FKBPをタグとして融合し、これを同じ細胞にむ人工相分離ドロップレット
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