MEDCHEM NEWS Vol.32 No.3
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139化合物スクリーニングポケットの構造座標図2  核磁気共鳴法(NMR)と仮想スクリーニング手法を併用したIDPを標的とした創薬の加速戦略IDP単独では複数のコンフォマーの平衡状態であるため、溶液NMRを測定したとしても立体構造は収束しない。またIDP単独では特定の立体構造をもたないため、仮想スクリーニングによる候補化合物は選定できない。しかし小規模のスクリーニングで標的IDPに結合する最初期の候補化合物が得られれば、溶液NMRで結合状態の複合体の構造決定が可能である(図中、下半分のサイクル)。ポケットの座標が得られれば、従来のSGDD手法により上半分のサイクルを回すことができ、サイクルが完結する。仮想混合物のNMR解析SPRなど Kd測定・検証IDP/化合物のAUTHORIDP試料(薬学)同 年 日本ロシュ株式会社研究所分子遺伝部1996年 株式会社生物分子工学研究所研究員2001年 横浜市立大学大学院総合理学研究科超分子システム科学専攻助教授2007年 神戸大学大学院医学研究科特命教授2011年 名古屋大学大学院理学研究科教授2012年 名古屋大学大学院創薬科学研究科教授2013年より 名古屋大学細胞生理学研究センター長(併任)2021年より 名古屋大学大学院創薬科学研究科長(併任)化合物ライブラリ候補化合物安定同位体標識廣明秀一(ひろあき ひでかず)1992年 大阪大学大学院薬学研究科博士課程修了博士 DBIDP/化合物の複合体立体構造参考文献 1) 西川建, 生物物理, 49, 004‒010 (2009) 2) 吉澤拓也, 生物物理, 59, 030‒031 (2019) 3) 廣明秀一, 相分離生物学の全貌 (現代化学増刊46), 124‒128 パク質に結合するという性質ゆえに、IDPが創薬標的として着目されやすいと述べた。そのうえで、IDP創薬を加速する仮想スクリーニング技術などの恩恵を受けるためには、溶液NMR法が必須であると考えられた。特に、IDP上の薬物結合ポケットはcrypticであり、化合物の存在により誘起され、さらに化合物の化学構造がわずかでも変化するとポケット構造も変化することがわかった。そのため、計算にも構造決定にも、通常の創薬以上に負担がかかる可能性を覚悟しなければならない。にもかかわらず、今後、LLPSの細胞内機能解明が進めば、さらに魅力的な天然変性状態の創薬標的は増えるであろう。IDP創薬の実践的手法も併せて進化し、新しい創薬理論の誕生につながるかも知れない。(2020) 4) 廣明秀一, 医学のあゆみ, 278, 653‒662 (2021) 5) 福地佐斗志他, 細胞工学, 33, 764‒769 (2014) 6) 太田元規他, 生物物理, 57, 085‒089 (2017) 7) van der Lee, R., et al., Chem. Rev., 114, 6589‒6631 (2014) 8) Ruan, H., et al., Drug Discov. Today, 24, 217‒227 (2019) 9) Hosoya, Y., et al., Molecules, 26, 2118 (2021)10) Robustelli, P., et al., J. Am. Chem. Soc., 144, 2501‒2510 (2022)11) Fuertes, G., et al., Intrinsically Disordered Proteins, 275‒327 (2019)Copyright © 2022 The Pharmaceutical Society of Japan

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