3. 創薬標的としてのIDPと、それに直接結合137図1 IDP創薬における化合物による介入の戦略(Fuertesらの総説11)を改変、加筆)IDPは溶液中では複数のコンフォメーションの平衡状態にある。戦略1ではIDPに直接相互作用する低分子により、この平衡状態を偏らせることで、パートナー分子との結合を起こりにくくしたり、毒性オリゴマーやアミロイド線維の形成を阻害する。相互作用パートナーとの結合時に特定の立体構造をとるIDPは多く、そのメカニズムは「induced fit」または「conformational selection」のいずれかの経路となる。パートナー分子が構造をもつタンパク質の場合には、従来の仮想スクリーニングなどの創薬手法により、パートナー分子を阻害する戦略が効果的である(戦略2)。毒性オリゴマーとその標的受容体の結合阻害薬も、同じ手法で探索可能である。一方、IDPの毒性オリゴマー形成や線維形成が試験管内で容易にモニター可能な場合には、ハイスループットスクリーニング手法などでこの過程を阻害する化合物が探索できる(戦略3)。同様に試験管内あるいは細胞内でLLPSによる液滴形成をモニターしながらそれを阻害する分子の探索が可能である(戦略4)。induce fitconformational selection戦略2標的への結合シグナル伝達戦略2標的への結合毒性発揮戦略1戦略3毒性オリゴマー戦略4液−液相分離液滴形成アミロイド線維伝搬(7)多重局在性を示すタンパク質によく見られる6)(8) 構造をもつタンパク質に比べて、未アノテーションのタンパク質が多い7)(9) 構造ドメインに比べて、分子機能未知の領域が多い これらのうち性質1~3により、長大なIDPに複数のタンパク質結合部位が連続するハブ(足場)タンパク質がしばしば観察される。特に疾患関連IDPの多くが、ハブタンパク質であることが知られている。そのためゲノム創薬の手法で創薬標的候補をリストアップする過程において、IDPが目立つようになったとしても不思議ではない。他方、立体構造既知のシグナリング酵素や代謝酵素など、立体構造に指南された創薬(structure-guided drug discovery:SGDD)の手法が適用可能な、新規かつ魅力的な標的は枯渇しつつある。未だ新薬が開発されていない標的が、配列情報解析の結果IDPと予測された場合には、それを標的とすることは避けて通れない。 これらを勘案したうえで、IDP創薬において、特に低分子を探索・設計する際に、IDPが機能ないし分子病態を発現する過程における化合物の代表的な4つの介入戦略を概観したのが図1である。 これまでにいくつかのIDP創薬に関する総説が執筆され、多くはないもののIDPに直接結合する化合物も知られるようになってきた8,9)。すでに多くの化合物取得の試みがなされた創薬標的では、がんに関するものと、認知症など神経変性疾患に関するものが多い。後者のいくつかはいわゆるアミロイド病であり、IDPがアミロイド線維や毒性オリゴマーなどの異常凝集体を形成する際に、IDPの構造多型間の平衡に介入する化合物(図1における戦略1)と、多量体化を直接阻害する化合物(同、戦略3)が含まれている。 北京大学のRuanらは、c-Myc阻害剤などのIDP直接阻害剤を30のグループに分類し、その化学的性質の記述子を統計的に解析し、FDA既認可の医薬品と比較した8)。その結果、IDP阻害剤は、FDA医薬品に比べて、する化合物に見られる傾向
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