MEDCHEM NEWS Vol.32 No.3
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4. 高分子電解質を用いる抗体の高濃度化と 5. pHに応答して可逆に沈殿するペプチドタグ134図3  タンパク質高分子電解質複合体抗体溶液にポリアミノ酸を加えると、静電相互作用で安定化された複合体を形成する8)。面では凍結乾燥法の方が優れている。 タンパク質は水溶液中で反対の電荷をもつ高分子と 複合体を形成しやすい性質がある。この複合体をタン パク質高分子電解質複合体(protein-polyelectrolyte complex:PPC)という8)。PPCの形成と再分散が可逆に生じるような条件をつくることができれば、凍結乾燥などによらず、水溶液中でのタンパク質の安定化ができ、高濃度化もできるだろう(図3)。 次のような実験になる。まず、抗体の水溶液にポリリシン(poly(Lys))などの高分子電解質を加えていくとPPCを形成して白濁が生じる。白濁が生じるのは抗体と高分子電解質が静電相互作用することで集まり、静電的な反発力がなくなり一定のサイズにまで集合しやすくなるためである。ここで遠心分離するとペレット状になり、上清を除去することもできる。最終的に150mMの塩化ナトリウムを加えると透明の状態になり、濃縮される。PPCイオン強度を上げることで解離させることができる9)。このように塩によって可逆なPPCの制御が可能である。 PPCの性質についていくつか研究を深めているが、PPCの形成によってモノクローナル抗体10)や酵素11)の安定性を改善したり、さまざまな抗体を高濃度化する技術に使ったり12)、高濃度のタンパク質溶液の粘度を低下させたりするなど13)、タンパク質製剤に応用できる方法になると考えている。 このPPCの状態は凍結乾燥よりも穏和な、水溶液中での安定化法に使えるが、PPCは白濁しているため、タンパク質に不可逆な変性が生じていないか慎重に検討する必要があるだろう。その点について詳しく調べた結果がある14)。PPCを形成させるためには、タンパク質の等電点と高分子電解質の等電点の間になる溶液のpHをあわせる必要がある。おおむねタンパク質の等電点よりもpHで2ほど酸性か塩基性にしておく。酸性の水溶液にしてタンパク質にプラスの電荷を帯びさせた場合には、マイナスのポリグルタミン酸などを用い、逆に塩基性の水溶液にしてタンパク質にマイナスの電荷を帯びさせた場合には、プラスのポリリシンなどを用いると、酵素や抗体、ペプチドなどの10種類のサンプルに対してPPCを形成し、イオン強度を増加させたときおおむね可逆に分散できる14)。 しかし、あまり静電相互作用が強く働くようなpHや溶液条件にすると、イオン強度を上げることでは解離しなくなる15)。このような条件になると、タンパク質が変性するために抗体や酵素薬などの安定化の方法としては使うことができない。逆に可逆性の高いPPCを形成させるためには、PPCが液-液相分離して形成されたドロプレットの状態になるとよい。そのためにはPPCを形成させるときに微量のアルコールを加えるなど、わずかな添加剤で望みの効果を出せることもある16)。 グラム陽性菌コリネバクテリウムがもつ細胞表層タンパク質(Cell surface protein B:CspB)は、菌体の表面に自己組織化した構造をつくることが知られている。CspBのN末端から50残基のアミノ酸(CspB50)をタグとして他のタンパク質に結合させると、pHを酸性にすることで白濁し、中性にすることで透明に戻るいわゆる酸性沈殿現象を起こす17)。例えばテリパラチドやビバレルジンなどのペプチド薬にCspB50を結合させると、安定化

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