公益社団法人日本薬学会(編集)131AUTHOR連続的な反応、物質の輸送や貯蔵、自然免疫の応答など、あらゆる現象が関わっていることが次々に明らかにされてきている。分子のレベルに還元して理解するよりもむしろ、ドロプレットを生命現象の機能の単位とみなす方がわかりやすい現象も多い。上に述べたような液-液相分離と生命現象の関係については、『相分離生物学』1)や『相分離生物学の全貌』2)などの成書にも詳しく整理されている。 このようなドロプレットの特徴を考えると、液-液相分離が絡む生命現象は奥が深く、創薬においても注目すべき重要な現象であることが容易に想像できるだろう。例えば、低分子薬のターゲットになるレセプターがドロプレットを形成していると仮定すれば、薬にそのドロプレットに溶けにくい性質があれば効果を発揮することができないわけである。また、あるタンパク質がドロプレットを形成すると、濃縮された状態になるため、アミロイドへと成長する例がいくつも報告されている。本号 4部から成り立つ本書は、興味を惹かれる箇所から読み進めることができ、第2部での開発者自身の手による“新薬開発”物語では、失敗や偶然の発見、多くの人との協力や支援があって、はじめて医薬品として実社会で利用されている経緯などが生き生きと語られており、読者を引き込む迫力に満ちている。 そのあとに続く第3部でのAI創薬など創薬に関する最新トピックス、また、第1部や4部では製薬産業や医薬品の財政状況などが経済学的観点から語られており、創薬に関する現状を広く浅く把握し、今後の創薬に関する展望や見通しなどが理解できる。現在創薬に携わっている人にとっては先人たちのエピソードや創薬の現状などを通して学ぶところは多い。さらに、専門用語に対しては至るところに脚注を配し、医薬品に詳しくない読者にも読みやすく配慮されている。薬事日報社/A5判/382ページ・定価3,300円(税込)(2021年4月刊)参考文献 1) 白木賢太郎, 相分離生物学, 東京化学同人 (2019) 2) 白木賢太郎編, 相分離生物学の全貌, 東京化学同人 (2019) 本書の中で、「創薬は人類が持ちうる人智を結集し、病気に立ち向かう活動です」(p.337)と述べられている。これまでの医薬品創出のスピード感と比べれば、新型コロナウイルスに対する昨今のワクチン開発は、世界が混乱に陥ったときからわずか1年足らずで、一定の有効性と安全性などが確認されたうえでヒトへの接種が開始された。これも全世界のワクチン開発に携わった関係者の人智が結集した成果である。社会活動の発展・維持には、人々の福祉・健康維持は欠かせない。この素晴らしい創薬の世界の学び直しや入門書として、本書を手に取ってほしい。では、液-液相分離と疾患の制御や、創薬への応用に関する話題を特集した。液-液相分離をターゲットにした新しい創薬がすでにスタートしている。また、細胞内や試験管内で液-液相分離を望みどおりに制御する技術が、タンパク質の安定化や機能制御の新しいアプローチになる。白木賢太郎(しらき けんたろう)1994年 大阪大学理学部卒業1999年 大阪大学大学院理学研究科修了同 年 博士(理学)(大阪大学)同 年 科学技術振興事業団博士研究員2001年 北陸先端科学技術大学院大学助手2004年 筑波大学物理工学系助教授2007年 筑波大学数理物質系准教授2016年 筑波大学数理物質系教授、現在に至る専門分野:蛋白質溶液学、相分離生物学Copyright © 2022 The Pharmaceutical Society of Japan北西 悟司(神戸薬科大学 大学院薬学研究科 薬科学専攻 修士課程2年)Copyright © 2022 The Pharmaceutical Society of Japan─少資源国家“にっぽん”の生きる道─紹介THE創薬
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