〔SUMMARY〕130MEDCHEM NEWS 32(3)130-131(2022)Keyword Liquid-Liquid Phase Separation, Disease, Protein Solution*1 筑波大学 数理物質系 教授 白木賢太郎Kentaro Shiraki*1 液-液相分離とは、2種類の溶液が混じり合わずに共存した状態のことをいう。身近には水と油のような溶媒の相分離があるが、タンパク質やRNAやATPなどの溶質を含んだ水溶液も液-液相分離することがある。例えば、ポリグルタミン酸と抗体を低イオン強度の溶液に溶かすと、両者は静電相互作用によって集まり、白濁した溶液になる。この白濁した溶液を光学顕微鏡で観察すると球状の物質が見える。これが液-液相分離して形成された液滴(ドロプレット)である。このドロプレットは、高濃度のポリグルタミン酸と抗体が含まれており、およそ電荷がゼロになった状態である。ドロプレットの周囲に仕切りがあるわけではないので、水分子やタンパク質などは自由に出入りできる。 液-液相分離は多様な組み合わせで生じる。例えば、リゾチームとオボアルブミンのような水溶性の球状タンパク質の組み合わせや、ポリリシンとATPのようなポリマーと低分子の組み合わせ、RNAと天然変性タンパク質など、相互作用する性質のある2種類の分子を混ぜるとドロプレットを形成することが多い。 高濃度のポリエチレングリコールとデキストランのよ タンパク質は水溶液中で集合しやすい性質がある。この集合した状態は水分子を含んで流動性を示す、いわゆる液-液相分離した状態である。細胞内で生体分子は液-液相分離した状態を形成することが多く、遺伝子の転写や翻訳、シグナル伝達など多様な生命現象との関連が明らかにされてきている。本特集では、液-液相分離を標的とする疾患の制御を特集する。Proteins tend to form aggregates in aqueous solution. This assembled state of proteins is a so-called liquid-liquid phase-separation (LLPS), which contains water molecules and exhibits fluidity. In living cells, all of the biomolecules often form LLPS, which is associated with diverse biological phenomena such as gene transcription, translation, and signal transduction. This issue features disease control targeting LLPS.うな高分子を混ぜたときにも、液-液相分離が観察される。これはポリエチレングリコールとデキストランが混ざった状態は熱力学的に好ましくないため、高濃度のポリエチレングリコールに低濃度のデキストランが含まれた溶液と、高濃度のデキストランに低濃度のポリエチレングリコールが含まれた溶液に分離するためである。 このように、相互作用しやすい分子や、また互いに混ざりにくい分子が含まれた水溶液は、液-液相分離が起きやすい。液-液相分離してドロプレットを形成すると、当然ながらドロプレットの内外では溶液の性質が異なる。ドロプレットの内部にはタンパク質が多く含まれているので、粘度が高くなっていたり、また誘電率が下がっていたりするだろう。また高分子で混み合った状態になっており、排除体積効果なども働くだろう。そのため、ドロプレットを形成したとき、低分子や別のタンパク質がそこに溶けやすくなったり、逆に溶けにくくなったりする。 液-液相分離は珍しい現象ではない。複数の種類のタンパク質が含まれた溶液は均質に分散するよりも、むしろドロプレットを形成する方が熱力学的に考えて自然だからである。実際に細胞内にはさまざまな種類のドロプレットがあり、遺伝子の転写やタンパク質への翻訳、タンパク質の分解、DNAの修復、シグナル伝達、酵素のFaculty of Pure and Applied Sciences, University of TsukubaDisease Control Targeting Liquid-Liquid Phase Separation[特集]液-液相分離を標的とする疾患制御特集にあたって
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