MEDCHEM NEWS Vol.32 No.3
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1μMKDHN6. アステックスでの最近の成果5. クライオ電子顕微鏡を利用したFBDD127図1  フラグメントスクリーニングで用いられる生物物理学的手法と各手法の検出感度フラグメント(MW < 250 Da)X線結晶構造解析タンパク質観測NMRリガンド観測NMRサーマルシフト表面プラズモン共鳴酵素アッセイリード化合物Ribociclib図2 KISQALI®(ribociclib)の構造式HTSヒット10μMMiniFrags10 mM1 mM100 mMNNNNONNHNコンピュータ、コンピュータクラスタ、クラウドコンピューティングによりインシリコSBDDの品質が大幅に向上しており、構造ベースのバーチャルスクリーニング、分子ドッキング、分子動力学計算などにより高品質のリードシリーズの開発をスピードアップしている。フォトレドックス触媒反応など有機合成化学の進歩もまた、これまでは多段階合成を要したフラグメントの難易度が高い成長ベクトルへの展開の迅速化を可能にして いる。 クライオ電子顕微鏡(Cryo EM)は、近年のイメージング検出器の品質、性能向上などの技術的な発展により、解像度が創薬実用レベルにまで向上し、2017年にはノーベル化学賞の受賞研究となり、X線構造解析に続く新しい高解像度構造解析技術として注目を浴びている。Cryo EMは構造解析にタンパク質の結晶を作製する必要がないことから、X線では構造解析が難しい高分子量タンパク質(>100kDa)、タンパク質複合体、膜タンパク質などでSBDDを可能にする技術として期待されている。アステックスでは次世代構造解析技術と して注目し、2015年からCryo EMのフラグメント創 薬への適用を目指し技術開発を開始した。2016年にはRichard Henderson博士と複数の製薬企業とともにケンブリッジクライオ電顕コンソーシアムを結成し、本技術の本格的創薬利用に向けた活動を開始した3)。2017年に日系製薬企業でははじめてCryo EMを社内に導入し、現在では複数のCryo EMを社内に配備し、これまで扱うことができなかったターゲットクラスのFBDDへの挑戦を続けている。Cryo EMのフラグメント創薬への利用を実用レベルにするために、構造解析の再現性、質、スループットの改良を重ね、pyruvate kinase 2(PKM2)を例としてフラグメントスクリーニングが可能であることを示した4)。Cryo EMのサンプル調製法の改良、解像度の向上、ソフトウェアの改良などの今後のさらなる技術発展により、スループットや再現性が向上し、Cryo EMは創薬においてより実用性が増し、創薬を変革する技術になると期待される。 先述のとおり、アステックスはビッグファーマとの協業を通して医薬品の研究開発を進めてきた。ノバルティス社とのサイクリン依存性キナーゼ(CDK4/6)を標的とした創薬コラボレーションにFBDDプラットフォームPyramidTMを適用し、ホルモン受容体陽性/ヒト上皮成長因子受容体2陰性(HR+/HER2-)の進行性乳がんにおけるアロマターゼ阻害薬との併用の第一選択薬として、2017年米国FDAより製造販売承認され、アステックス創薬研究初となる承認薬としてKISQALI® (一般名ribociclib)がノバルティス社から上市された (図2)5)。 また、2005年にニューキャッスル大学のNorthern Institute of Cancer Research(NICR)との共同研究か

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