MEDCHEM NEWS Vol.32 No.3
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126替え/拡充を行っている。フラグメントをより複雑な 3次元(3D)構造にすることで、タンパク質間相互作用(PPI)などの難しい標的への親和性がより高くなり、物性も改善されると考えられているが、3Dフラグメントは複数のターゲット群でヒット率が低いことを確認している。アステックスでは最近では共有結合性のフラグメントや超低分子量(HAC 5~7)のMiniFragと名付けたフラグメントに注目している2)。溶解度が高く高濃度でスクリーニングすることが可能なMiniFragライブラリは、標準的なフラグメントに比べてヒット率が大幅に向上することが明らかになった。しかし、その超低分子量ゆえに、X線結晶構造解析以外では検出が困難であるため、このMiniFragライブラリは従来のフラグメントスクリーニングを補完し、ヒット化合物の伸長に利用されている。 フラグメントスクリーニングにおける検出方法は、その桁違いに低い結合親和性のため高感度で堅牢な手法が必要である。多くの技術が使用されているが、最も一般的な技術は核磁気共鳴(NMR)分光法およびX線結晶構造解析である。その他に表面プラズモン共鳴(SPR)、サーマルシフトアッセイ(TSA)、マイクロスケール熱泳動(MST)、等温滴定熱量測定(ITC)、ネイティブステートエレクトロスプレーイオン化質量分析法(ESI- MS)などがある。 NMR法はリガンド観測法とタンパク質観測法の2種類に大別され、リガンド観測法はタンパク質量が少量で済み、多くの場合この手法が選択される。1Hを観測する中程度のスループット性で、フッ素化ライブラリの19Fを観測することやカクテル法でさらにスループットを向上させることができる。一方で、タンパク質観測法はタンパク質とフラグメントとの親和性を直接測定が可能で、結合部位のマッピング、タンパク質のコンフォメーション変化を観察できる。従来スループット性が低かったが技術の進歩により高速化されている。 X線結晶構造解析は可溶性タンパク質の構造を決定するための最適な方法で、アステックスが有する主たる技術である。タンパク質の結晶化、フラグメントの浸漬、X線回折データ収集、データ処理、モデルフィッティングなどを含むハイスループット結晶構造解析は、自動化や小型化により成されている。最近のシンクロトロンにおける技術の進歩により、単一のX線データセットを1分未満で収集可能で、リモートデータ収集と自動データ処理により構造解析が合理化されている。 アステックスにはAstex Viewerと呼ばれる独自開発したタンパク質-リガンド結合構造の3D Viewerが存在し、取得したX線構造、電子顕微鏡構造、外部データベースの構造を表示することができる。単純な表示機能だけでなく薬剤デザインに有用なさまざまな機能が盛り込まれており、常に改良が進められている。 フラグメントのタンパク質への結合を特定するために、多くの生物物理学的手法を使用できる。通常、オーソドックスな方法の組み合わせが使用され、スクリーニングカスケードはプロジェクトごとに調整されることがよくある。スクリーニングカスケードを設定する際には、発現タンパク質の収量、構造安定性、結晶への浸漬に対する適応性、そして測定感度を含むその他の要因を考慮する必要がある。多くの場合、NMR分光法が一次スクリーニングとして使用され、続いてX線結晶構造解析が使用されるが、この10年間で一次スクリーニングとしてX線を使用することが一般的になっている。タンパク質の発現量が少ない場合はSPRやTSAを使用することができ、フラグメントヒットがより高い効力を有する化合物に精緻化されると、生化学的アッセイが親和性を測定するために使用される(図1)。 FBDDプログラムの成功には、Fragment to Lead(F2L)ステージに進むためのヒット化合物の選択が重要となる。可能性が最も高いフラグメントヒットを選択するには、物性、リガンド効率(LE)、親油性リガンド効率(LLE)、フラグメントの結合モード、潜在的な成長ベクトルなど複数の基準を評価する必要がある。これらの特性についての基準はターゲットプロダクトプロファイルに応じて異なり、例えば中枢薬を目指すのであれば、低い極性表面積や水素ドナーの数など、特定の物性をもつフラグメントが優先される。 mMレンジの弱い結合親和性からnMへの最適化は依然として課題であり、利用される主なアプローチはフラグメント成長で、これは一般的にX線構造の取得と生物物理化学的アッセイの繰り返しにより原子ごとに細かく誘導する。一方、フラグメント同士をつなげる方法では両フラグメントの結合ポーズを乱さないようにリンカーの設計に注意が必要である。 F2L SBDDプログラムでは主にタンパク質-リガンド複合体X線構造を用いて進められるが、この戦略を起用すると、通常50から100化合物程度の合成でフラグメントヒットから急速にμM以下の親和性に発展することがある。AIや機械学習の開発と相まって、スーパー

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