3. 英国ケンブリッジについて4. FBDDについて125of Chemistry(RSC)の重職を務めるとともに、2020年にはRSCの3人目の殿堂入り(Hall of Fame)という名誉を受けている。 ケンブリッジはロンドンから北に電車で1時間弱程度の距離に位置しており、ケンブリッジ大学を中心とする学園都市である。町の人口は約15万人(2020年時点)で、ケンブリッジ大学の学生数が約2万4千人と学生の割合が高く、近年は世界の大企業やベンチャー企業が進出するなど、サイエンスやビジネスの力がさまざまな国籍の多くの人々を引きつける国際色豊かな町である。南西から北東にかけて町の名称の由来であるケム川が流れており、この川の周囲に学生、研究者が集うパブ(日本でいう居酒屋)、公園が見え、街中にもかかわらず夏には公園、草地に牛が放牧されており、初めて来る日本人には驚きが多い。 ケンブリッジは世界でも有数のバイオテッククラスターであり、町の中心に位置するケンブリッジ大学をはじめ、周辺には多数の研究所、ベンチャーが集まるサイエンスパークが点在している。中心部南部には多くのノーベル賞受賞者を輩出しているMRC分子生物学研究所(MRC-LMB)とアストラゼネカ社新研究所が所在するケンブリッジバイオメディカルキャンパス、南部 にはEMBL-EBI(欧州分子生物学研究所-欧州バイオインフォマティクス研究所)、サンガー研究所を擁するWellcome trust genomeキャンパス、北部には大小のサイエンス企業が集まるケンブリッジサイエンスパークがあり、そのケンブリッジサイエンスパークの一角でアステックスは活動している。ケンブリッジでは、大学、ベンチャー企業、大企業間の交流が、人的ネットワーク、あるいは交流を促進するフォーラムやコンソーシアム を通して、積極的に行われており、それらは学術水準 の向上や新研究分野の創出の源泉になっている。具体 的な例としては、フォーラムとして、大企業、バイオテック、大学から治療薬に関連するトピックの発表を 行うCambridge New Therapeutics Forum(https://www.camntf.org/)があり、治療薬開発関連分野の研究内容の共有、研究者間のネットワーキングに有用な会となっている。創薬コンソーシアムとしては、ケンブリッジ大学のMilner therapeutics consortium(https://www.milner.cam.ac.uk/)があり、ケンブリッジ大学と企業をつないで治療薬創出促進を目指した活動を進めている。このコンソーシアムは当初ケンブリッジ大学、サンガー研究所、アステックス、GSK社、アストラゼネカ社により企画されてスタートしたが、現在は参画企業も増え活況を呈している。アステックスのバイオテックとしての成功には、これらのケンブリッジの地の利によりもたらされる利点、すなわち優秀な研究者の獲得、最新のサイエンスレベルの維持、協業の文化が大きな役割を果たしている。 1990年代、HTSがリード化合物を創出するための主要な技術として確立されてきたが、難しいターゲットに対してヒット率が低く、最適でない物性のリード化合物が得られることが多いことが明らかとなり、それを解決する先駆的な研究が行われてきた。そしてFBDDという言葉が2002年に生まれ、現在では大学、企業での主流創薬技術として確立されている。 FBDDにおけるフラグメントスクリーニングは、数万~数百万化合物と多数の化合物をスクリーニングする従来のHTSとは異なり、少数(千から5千種)の低分子量の化合物(水素以外の原子数(HAC)<20)からなるフラグメントライブラリを用いて行われる。フラグメントライブラリは、HTSのそれよりもはるかに効率的に化学空間をサンプリングすることが可能で、小さいため物性も良好でリード化合物創製に向けて優れたスタートポイントとなる。ライブラリの構築、維持、展開にかかるコストも低く魅力的である。 過去約20年でFBDDは大きな成功を収めており、アステックスでの成果も含めたFBDD由来の化合物がすでにFDAから承認、40化合物以上が現在臨床試験中であり、最新のFBDD技術と併せて紹介する。 スクリーニングにおいて最も重要ともいえるのがライブラリ設計だが、2003年にアステックスが発表した「Rule of three」(<300Da、cLogP<3、水素供与体/受容体<3、回転可能な結合<3)1)というフラグメントライブラリのガイドラインは時の経過とともに繰り返し最適化され改良されてきた。ライブラリ化合物はHAC<20と先述したが、アステックスではHACが10~14のフラグメントにおいてX線結晶構造解析によるヒット率が高いことを確認し、新たなフラグメントを常にデザイン、合成または購入し、定期的にライブラリの入れ
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