おかだ やすし1981年3月 関西学院大学経済学部卒1981年4月 エーザイ株式会社入社2002年6月 同社経営計画部長2005年6月 同社執行役医薬事業部事業推進部長2008年1月 同社アジア・大洋州・中東事業本部長(シンガポール駐在)2017年6月 同社代表執行役チーフタレントオフィサー兼業界担当兼中国事業担当兼総務・環境安全担当2019年6月 同社代表執行役COO兼業界担当兼中国事業担当兼データインテグリティ推進担当(現任)2021年5月 日本製薬工業協会会長(現任)MEDCHEM NEWS 32(3)113-113(2022)113年4回2、5、8、11月の1日発行 32巻3号 2022年8月1日発行 Print ISSN: 2432-8618 Online ISSN: 2432-8626日本製薬工業協会 会長岡田 安史 かつて、世界の株式時価総額のランキングで、その上位のほとんどを日本企業で占める時代がありました。1990年代初頭まで続いた、いわゆるバブル期です。当時の日本企業は、携帯電話からインターネットに繋ぐ「iモード」や「使い捨てカメラ」などのイノベーションに結び付く数々の基礎技術を生み出していました。創薬においても、低分子医薬品のブロックバスターを数多く創出し、一世を風靡しました。 しかし、その後、多くの日本の製薬企業はバイオ医薬品の開発に乗り遅れ、その地位が低下していきました。そして、現在、日本のイノベーション創出力においても残念ながら低下の兆候が見られます。論文数では、日本は過去20年で世界5位から10位へとランキングを下げ、研究者数の伸びも欧米や中国に比べて低調と報告されています。ライフサイエンス分野のエコシステム都市ランキングでも、ベスト20に日本の都市は入っていません。そして、この度の新型コロナウイルスワクチンの開発でも、欧米諸外国に対し、国産ワクチンの実用化が大きく遅れました。 今、日本のイノベーション創出力の低下を懸念する声があがっています。そこで、我々は将来に向けて、イノベーション創出力を取り戻すべく舵を切り始めました。政府は「ワクチン開発・生産体制強化戦略」に基づき、2022年3月に先進的研究開発戦略センター(SCARDA)を発足、ワクチン研究開発を推進する体制を整備しました。また、「バイオ戦略2020」に基づき、国内のバイオコミュニティの整備が始まり、厚生労働省より8年ぶりに「医薬品産業ビジョン2021」が発出されるなど、産官学一体で日本のイノベーション創出力の強化への取り組みが動き出しました。 創薬サイエンスでは、日本が強みを有する低分子医薬品の研究開発においても、従来の低分子薬の概念を覆すような大きな進歩が見られます。 結晶化の必要がなく薬の標的となるタンパク質の構造情報を迅速かつ詳細に分析できるクライオ電子顕微鏡などの分析機器の高性能化、AIやコンピュータシミュレーション技術の進歩、標的タンパク質分解薬の登場などにより、従来の低分子では難しかった創薬ターゲットに対してアプローチが可能となりつつあります。新規モダリティと同様の作用を有する低分子医薬品も開発されており、今後の創薬の1つの潮流になると考えています。 新規モダリティに加え、日本の企業やアカデミアの強みである低分子創薬力・有機化学合成力をイノベーション創出力に結実させるためには、国内外の異領域研究から生まれる最新のテクノロジーを積極的に取り入れ、革新的創薬の種を社会実装へと育成することが重要であり、メディシナルケミストの役割は極めて大きいと考えています。これからの創薬イノベーションを牽引するシン・メディシナルケミストリーの発展に期待します。Yasushi OkadaJapan Pharmaceutical Manufacturers Association (JPMA), ChairmanCopyright © 2022 The Pharmaceutical Society of Japan公益社団法人 日本薬学会 医薬化学部会NO.3Vol.32 AUGUST 2022イノベーション創出力の強化をシン・メディシナルケミストリーに期待
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