MEDCHEM NEWS Vol.32 No.2
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3. おわりにKRAS inhibitor(RMC-6291)KRASG12C(活性型)Cyclophilin ABinary complexAUTHORKRASG12C(活性型)RAFCyclophilin AstericocclusionTri-complex修了同 年 田辺三菱製薬株式会社入社(現在に至る)2020年 北里大学博士(薬学)Cyclophilin A104Figure 2  Tri-complex inhibitorの阻害様式技術を有している。Tri-Complex Inhibitorとは、カルシニューリン阻害剤であるCyclosporineやFK506が、それぞれCyclophilin AやFKBPと複合体形成し、カルシニューリンを阻害する作用メカニズムと同様に、細胞内に豊富に存在するイムノフィリンをシャペロンタンパク質として利用し、3者複合体の形で標的タンパク質の機能阻害を狙った手法である。 SotorasibやAdagrasibがGDP結合型KRASに結合することでシグナル伝達を抑制する一方で、Revolution Medicines社が見出したKRASG12C阻害薬RMC-6291は、Cyclophilin Aと複合体を形成しながらGTP結合型KRASに結合するとされ、既存の阻害薬とは阻害様式が異なる(Figure 2)。阻害様式が異なることでRMC-6291は、GDP結合型KRASに結合する阻害剤と比較して、速やかにKRASとRAFとの結合を阻害するだけでなく、上流の受容体型チロシンキナーゼを増殖因子刺激で活性化した場合でも、Adagrasibより強力にERKリン酸化を抑制することができる。また、Adagrasib単剤療法を受けたKRASG12C変異患者の解析で、Y96C/DやH95D/Q/Rなどの変異が生じ、耐性を獲得することが報告されているが5)、RMC-6291ではこれらの獲得変異に対しても有効性を示すことが示された。非小細胞肺がん患者組織移植モデルマウスにおいても、Adaragsibと同等以上の腫瘍退縮作用が確認され、KRASG12C阻害薬としてBest-in-classの薬剤となることが期待される。また、Revolution Medicines社では、本アプローチでpan-RAS阻害薬のプログラムも行っており、すでにKRASG12VやG12Dなどの変異に対しても高い抗腫 瘍作用を確認済みであることが発表された。さらに、Boehringer Ingelheim社からも開発中のKRASG12C 阻害薬BI 1823911だけでなく、研究ステージのKRASG12D阻害薬、pan-KRAS阻害薬、pan-KRAS 分解誘導薬のプログラムについてデータが紹介され、G12C以外のKRAS遺伝子変異に対する治療薬の臨床入りも近づいていることを感じた。 undruggableターゲットという言葉は、疾患の原因であることが明確であるにも関わらず、“従来の”創薬アプローチでは制御することができない標的を表すためにつくり出された。本学会を通じて、創薬技術の進歩や独創性の高い創薬アプローチ、そして諦めずチャレンジし続けることによって、“undruggable”ターゲットを“druggable”なターゲットへと変え、治療薬を創製することも不可能ではないことを実感した。病に苦しむ患 者さんがいる限り、創薬化学者として、いかなるundruggableターゲットに対しても諦めずチャレンジし続けなければならないと意を強くした次第である。参考文献 1) Spradlin J.N., et al., Acc. Chem. Res., 54, 1801‒1813 (2021) 2) Boike L., et al., Cell. Chem. Biol., 28, 4‒13 (2021) 3) Luo M., et al., Cell. Chem. Biol., 28, 559‒566 (2021) 4) Ward C.C., et al., ACS. Chem. Biol., 14, 2430‒2440 (2019) 5) Awad M.M., et al., N. Engl. J. Med., 384, 2382‒2393 (2021)榊原良(さかきばら りょう)2012年 名古屋大学大学院生命農学研究科博士前期課程 Copyright © 2022 The Pharmaceutical Society of Japan

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