NHHNNHHNOOOOOOOOSHS-Cys171(MYC)EN4Cys171103Figure 1 EN4のMYC阻害様式なアプローチが必要であり、その1つとしてActivity-Based Protein Profiling(ABPP)を用いた共有結合リガンドスクリーニングが報告されている。本学会では、そのトップランナーの1人であるカリフォルニア大学バークレー校のDaniel Nomura教授が、“Target Identification and Validation”と“PROTACs”の2つのセッションで講演するなど、注目度の高さが伺えた。ABPPの手法を応用し、システインなどの特定のアミノ酸残基と共有結合する求電子的反応基を有するプローブを用いてスクリーニングすることで、タンパク質が混在する細胞中から、低分子が結合可能な各タンパク質のアミノ酸残基(ホットスポット)を同定可能である。本手法により、Nomura教授らのグループではこれまで16,000以上のタンパク質中に100,000以上のホットスポットを見出している。その中には、従来undruggableとされてきたタンパク質も数多く含まれており、“Target Identification and Validation”のセッションでは、ホットスポットを狙った転写因子MYCに対する共有結合リガンドスクリーニングについて紹介された。 MYCは、MAXとのヘテロ二量体化とE-box配列への結合を介して、細胞増殖や細胞の生存に関わる遺伝子の転写を活性化することが知られている。また、種々のがんで高頻度に増幅することが明らかとなっており、これまでにMYCによる転写活性化を制御するさまざまな創薬アプローチが試みられている。しかしながら、MYCは長い天然変性領域を有するタンパク質であるため、低分子による直接的な標的化はこれまで困難であった。Nomura教授らのグループは、MYCの171番目のシステイン残基をホットスポットとして同定し、MYCに対する共有結合型阻害剤を見出すため、アクリルアミドとクロロアセトアミドからなるシステイン反応基をもつ98個のフラグメントライブラリをスクリーニングした2)。E-boxコンセンサス配列へのMYC/MAX複合体の結合アッセイ、および細胞におけるMYCルシフェラーゼレポーターアッセイをそれぞれ行った結果、いずれのアッセイにおいてもEN4(Figure 1)を最も強い2-2.KRAS創薬 MYCと並ぶがんドライバー遺伝子KRASは、数多の製薬企業がその攻略に挑戦と挫折を繰り返し、発見から40年近く経った今、ようやく実を結びつつある。KRASは、GTPが結合した活性型とGDPが結合した不活性型のバランスによってシグナル伝達が制御されているが、KRAS遺伝子に変異が生じると、そのバランスが崩れてがん細胞の異常増殖につながる。G12C変異はさまざまながんで高頻度に見られるKRAS遺伝子変異の1つであり、Amgen社が開発したSotorasibがKRASG12Cを標的とした薬剤として、はじめて2021年5月にFDA承認された。また、Mirati Therapeutics社のAdagrasibをはじめ、複数の後続薬の臨床試験が行われている。 本学会では、Revolution Medicines社から、先行のKRASG12C阻害薬とは異なる創薬アプローチによっ て見出された、プロファイルが大きく異なる新たなKRASG12C阻害薬について発表された。Revolution Medicines社では、リガンダビリティの低いタンパク質を制御する独自の手法として、Tri-Complex inhibitor阻害活性を示す化合物として同定することに成功した。またLC-MS/MSでの解析によって、EN4の結合部位が予想どおりCys171であることを確認した。さらにプロテオーム解析の結果、EN4の明確なオフターゲットとしては8つのタンパク質が見出されるのみで、低分子量のフラグメントながら比較的高い選択性を示すことを明らかにした。EN4の薬理作用としては、MYC標的遺伝子の転写レベルを低下させるとともに、MYCがドライバーとなっている乳がん細胞において抗腫瘍作用を有することが紹介された。 “PROTACs”のセッションでは、種々のE3リガーゼに結合する共有結合リガンドを取得し、PROTACsでの利用に成功していることが紹介された3,4)。リガンダビリティの低いタンパク質に対するリガンド取得の方法論として、共有結合リガンドスクリーニングは今後も重要な選択肢となっていくと思われた。
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