徳島大学 大学院医歯薬学研究部 代謝栄養学分野 香酸柑橘類は柑橘類の中でも特に香りや酸味が強く、そのものを生で食するよりも薬味や風味づけのために用いられることが多い果実である。柚子やスダチ、カボスなどがよく知られるが、レモンやライムなど西洋の果実にも香酸柑橘に分類されるものがある。香酸柑橘の成分をみると、果汁中には、有機酸であるクエン酸、ギ酸、リンゴ酸、フマル酸のほか、ペクチン、ビタミンCが豊富であり、味だけでなく、疲労回復促進や美肌効果などが期待され、それらを謳った飲料や健康補助食品が一般に販売されている。一方で、古来よりみかんの皮が 「陳皮」とされ、薬膳や漢方などで活用されてきたように、果皮にも健康増進に関わる成分が多く含まれていると期待される。 香酸柑橘の果皮には、食物繊維や芳香成分であるリモネンやミルセンなどのほか、健康機能性が期待されるフラボノイド類が多く含まれる。フラボノイドは、ポリフェノールの代表例であり、クマロイル酸CoAとマロニルCoAが重合してできるカルコンから派生する植物二次代謝物の総称である。ほとんどの柑橘に特徴あるフラボノイドが含まれており、たとえばじゃばら(Citrus jabara:柚子と九年母などの自然交配種)に含まれるナリルチンの抗アレルギー作用、シークワーサー(Citrus depressa)に含まれるノビレチンの抗肥満・抗動脈硬化作用など、さまざまなフラボノイドの機能性研究が進んでいる。ケルセチンやヘスペリジンはビタミンPと呼ばれた歴史を有し、また、アントシアニンもビタミンとして考えられてきたが、欠乏症を生じないというのがビタミンと大きく異なる特徴であり、ビタミン様物質として考えられている。 柑橘類はわが国に200種類以上あるとされており、それぞれの地域でのみ栽培されているものも多い。筆者らは、「幻の果実」とされるユコウに注目して機能性の研究を行っている。ユコウは柚子とダイダイの自然交配種とされているが、果皮のみならず果汁中にもノビレチンなどのフラボノイドを含む珍しい果実で、味のまろやかさや独特の風味から古くから地域で親しまれてきた。筆者らはこれまでに、「ユコウは腐りにくい」という民間伝承に基づき、果皮中に含まれるタンゲレチンなどのフラボノイドに抗菌作用があること、果汁中のフラボノイドには腸内細菌叢の改善作用があることを見出してきた。この果汁中のフラボノイドは、酸・加熱に強く、構造を変えずに腸内に到達する(特許公開番号 特開2019- 137660)。 これまで多くのフラボノイドの機能性が報告されているが、先人たちはこれらを自然と生活の中に活かし、食文化として守ってきたと感じる。フードロスが大きな課題となるいま、果皮を含む多くの未利用資源の付加価値の探索は、科学的にも環境的にも重要なテーマとなると期待したい。堤理恵(つつみ りえ)2006年徳島大学大学院栄養学研究科博士後期課程修了。2006年〜2008年米国カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部ポスドク研究員。2008年〜 2009年武庫川女子大学講師を経て2009年5月より徳島大学大学院助教、2018年より同講師。専門は栄養学、代謝学。大学発ベンチャーCitlianを設立し、農水産物の付加価値化にも尽力している。写真 ユコウ(柚香) AUTHOR MEDCHEM NEWS 32(2)101-101(2022)101Copyright © 2022 The Pharmaceutical Society of Japan堤 理恵Coffee Break香酸柑橘類に含まれるフラボノイドの可能性
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