97図10 211Atの乾式蒸留分離装置の概念図9 核物理研究センターの専用照射コースに設置した211At製造装置3月までの間に11~16例を対象に実施予定となっている。今後、[211At]NaAtが日本発の核医学治療薬として、世界中の患者に使用されることを目標として、ぜひ治験を成功に導き、医薬品としての実用化を目指したい。6. 211Atの製造分離供給 短寿命の放射性同位元素(RI)である211Atはサイクロトロン等の加速器を用いて製造する必要がある。その製造にはいくつかの核反応が考えられるが、ビスマス(209Bi)標的にαビーム(4He2+イオン)を照射することによって起きる209Bi(α, 2n)211At反応が最も容易に利用できる。この核反応で製造する際、αビームの照射エネルギーが高いと、毒性の高い210Poを生じる211Atが同時に生成されてしまうため、照射エネルギーを約27.5MeV以下に制御することが必要である。 筆者らは、本学核物理研究センター(RCNP)のM実験室に、自動211At製造装置を設置した医学用RI製造用照射コースを有しており(図9)、K140 AVFサイクロトロンからのαビームを照射して211At製造を行っている。一般に加速器を用いたRI製造では、強烈なビームによって発生する熱で標的が破壊されることが多く、特に融点の低い標的ではその影響を受けやすい。そのため、本装置では装着したBi標的の両面からヘリウム空冷ならびに水冷を行っている。また、本装置では照射後に自動で遮蔽用鉛容器に標的を格納することで、作業者の余計な被ばくを防いでいる。この装置では約2μAのαビームを6時間照射することで、100MBq程度の211Atの製造が可能である。 一方、RCNPでは、2019年からAVFサイクロトロンの増強改修を開始した。そのため、筆者らは理化学研究所仁科加速器科学研究センターとの間で研究成果有体物提供契約を結び、定期的な211Atの供給を受け、これを利用して研究を進めている。また、加速器のビーム量増加に備えて、この改修期間に上記の211At製造装置の改良を進めている。すでに加速器の工事は終了しており、施設検査等の後に加速器は再稼働する予定である。増強されたAVFサイクロトロンからは10μA以上のαビームが得られると期待されており、24時間の照射で最大約2GBqの211Atを製造できると見積もっている。 また加速器での製造後、211AtはBi標的中に分散して存在しているが、医学利用のためには分離精製が必要である。筆者らはAtの沸点の低さを利用した乾式蒸留法により、209Biから分離を行っている。開発した蒸留分離装置の概念図を図10に示す。211Atを含むBi標的を管状炉内の石英管内で840℃まで熱し、Biを溶解するととともに211Atを気化させる。石英管にキャリアガスを通
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