96図7 甲状腺がんモデルにおける131I・211At投与後の腫瘍増殖曲線図8 アスタチン自動分離精製装置(治験薬製造用)図6 甲状腺がんマウスにおける[211At]NaAt投与後の分布画像 矢印:K1-NIS腫瘍に高集積を認める。より、実際に人に投与するために必要な有効性および安定性に関する課題にもチャレンジしている。5. アスタチンを用いた医師主導治験の実施 現在、分化型甲状腺がんの治療において、放射性ヨウ素([131I]NaI)を用いた内用療法が行われている。しかし、十分な治療効果が得られない患者が少なくない。特に放射性ヨウ素が病変に取り込まれているにも関わらず、転移巣の縮小効果が得られない患者もいることから、より治療効果の高いα線核種を用いた治療に期待が寄せられている。また多発転移に対する[131I]NaI治療においては、周囲への被ばくのリスクがあるため、専用の病室への隔離的入院が必要となる。当該病室への入院は、多くの医療機関にとってもコスト面から治療病室の維持が難しく、治療病床は減少傾向にあり、治療までの平均待機期間も約5ヵ月となっている。もし放射性ヨウ素を周囲への被ばくがほとんどないα線核種の211Atに切り替えることができれば、外来通院での早期治療開始が可能となり、患者および医療機関の負担が軽減されることが見込まれる6)。 211Atの非臨床試験に関して、細胞実験に加えて、甲状腺がんモデルを用いた有効性評価を行った。その結果、ヨウ素を取り込む機構であるナトリウムヨウ素シンポーター発現腫瘍(K1-NIS)に高集積を呈すること (図6)、また従来の131Iと比較して、腫瘍縮小効果が長く持続することを確認した(図7)7)。次にPMDA対面助言に基づいて、マウスを用いた拡張型単回静脈内投与毒性試験を実施した。その結果、高用量群では、一過性の骨髄抑制や精巣の病理所見の変化を認めたものの、重篤な毒性は確認されず、5~50MBq/kgの投与量は許容範囲内であることが確認された8)。 また今回、治験薬は院内製造となり、自動分離精製装置を用いて、治験薬GMPに準拠した製法および品質試験法を確立し、3ロット試験を行った(図8)。最終的に、本薬剤が治験薬GMP準拠で安定した製造が可能であり、注射剤として問題のない品質であることを確認した。 治験の実施については、前述の毒性試験を参考に設定した開始用量や治験デザインに関して、PMDA対面助言での合意が得られた。その後、2021年10月に治験審査委員会の承認が得られ、PMDAへの治験届提出が完了し、医師主導治験を開始した。本治験は、第Ⅰ相治験として、難治性の分化型甲状腺がん患者に[211At]NaAtを静脈内単回投与し、安全性、薬物動態、吸収線量、有効性を評価し、PhaseⅡ試験以降における推奨用量を決定することを目的としている。2021年11月から2024年
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