211At-AAMTの腫瘍(矢印)への集積画像(右)95図4 メラノーマ肺転移モデルにおける211At-AAMTの効果図5 211At標識抗体の模式図図3 211At-AAMTの構造(左)および膵臓がんモデルマウスにおける投与後の腫瘍増殖抑制効果(中)と、 減し、がん特異的な高精度の再発・転移診断を目指している。 LAT1はがん細胞に栄養分としてのアミノ酸を供給する役割を担っている。LAT1を介したmTORシグナルはがん細胞の生存に必須であることが明らかになっており、がん細胞においてLAT1を抑制するとその増殖は抑制される。α-methyltyrosineはLAT1に高い選択性をもつ。そこで筆者らはα-methyltyrosineに211Atを標識することを試みた。その結果、211At標識α-methyltyrosine(211At-AAMT)はLAT1に高い選択性をもつことが明らかとなったため、がん治療に有用であることが推測された。そこで膵臓がんモデルを用いて抗腫瘍効果の検討を行った。その結果、211At-AAMTは単回投与で転移抑制効果のみならず腫瘍増殖抑制効果をもつことが明らかとなった(図3)5)。また、メラノーマの肺転移モデルにおいては単回投与で転移を抑制することも明らかとなった(図4)。 211At-AAMTは今後、最適化を行うことで将来的にはさまざまながんの患者にとって有効な治療薬となることを目指している。211At-AAMTを用いたα線核医学治療は注射薬による全身治療であり、多発転移のある進行がんにも用いることができる。膵臓がんをはじめとする難治性がんにおける、低侵襲かつ画期的な治療法となることが期待される。4. 211At標識抗体の創製と機能評価 抗体医薬品は特定の抗原だけに特異的に結合し、その抗原をもつ異物を生体内から除去するという特徴を活かしてつくられている。そのため治療効果が高く、副作用の少ない治療薬として注目されている。最近注目を集めている抗体薬物複合体や放射線免疫複合体は、細胞傷害活性を発揮する低分子薬や放射線核種を、抗体と適切なリンカーを介して結合したハイブリッド医薬品である。筆者らは、211Atを標識した抗体をいくつか作製し、膵臓がん細胞株や、Bリンパ腫細胞株を移植したモデルマウスにおいて、通常の抗体よりも高い腫瘍成長抑制効果を確認している(図5)。また、半減期の短い211Atを速やかに標的細胞まで送達する工夫として、抗体の低分子化や、細胞内保持能を向上させた標識リンカーの改良、および抗原結合能に特化したペプチドを用いた検討も進めている。そのうえで、品質安定性の検討にも取り組んでいる。中分子~高分子に対する薬剤/放射線核種の標識に汎用される、アミノ酸残基への非特異的な標識法ではなく、例えば糖鎖結合部位などの特定された箇所への211At標識法を開発し、特許出願も行っている。これに
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