3. がん細胞型アミノ酸トランスポーター(LAT1)94図1 [211At]APAの合成化学反応式図2 211At水溶液とNBSまたはKIの反応による中間体の形成と、211At標識アリルボロン酸の合成医学における画像診断(例:123I-イオフルパン、パーキンソン症候群)や治療(例:131I-ヨウ化ナトリウム、甲状腺がん)に広く利用されている1)。放射性ヨウ素を含む医薬品の製造では、トリアルキルスズ基で修飾された前駆体と放射性ヨウ素間の芳香族求電子置換反応が用いられることが多い。この反応は有機溶媒中で、酸化剤 (クロラミンT、ヨードゲンまたはN-ブロモコハク酸イミド(NBS)等)の存在下で行われ、高い放射化学的収率が得られる。211Atも、ほぼ同様の方法および条件で標識できることが知られている。しかしながら、スズは有害物質なので、これから開発する医薬品の製造原料として採用するのは好ましくない。また有機溶媒や酸化剤の使用もできれば避けたい。このような理由から、スズに替えて、より安全で環境に優しい芳香族ボロン酸をアスタチン標識反応に利用できないか検討することにした2)。 211At標識フェニルアラニン([211At]APA)は、主にL型アミノ酸トランスポーター(LAT1)を通過する非天然型アミノ酸で、脳腫瘍の治療薬として有用であることが知られている3)。そこで芳香環の4位にボロン酸が導入された4-ボロノ-L-フェニルアラニン(BPA)を原料として用い、211At-APAの合成を試みた(図1)。乾式蒸留で分離精製された211Atは、通例、クロロホルムやメタノール等の有機溶媒に溶解して用いられる。しかしながら前述のように、筆者らは製造工程から有機溶媒を排除するため、211At水溶液を用いることにした。一方、酸化剤はトリアルキルスズ法に準じてNBSを用いた。1%のBPA水溶液に211At水溶液(10MBq)を加えて0.4% NBS水溶液を滴下し、室温下で1時間反応させると90%以上の放射化学的収率で[211At]APAが得られた。放射性同位体の化学反応では、安定同位体を担体として加えると反応が安定化し、収率が向上することが知られている。しかし、アスタチンには安定同位体がない。そこで替わりにヨウ化カリウム(KI)を疑似担体として用いたところ、放射化学的収率が98%以上に改善した(NBS等の酸化剤は加えていない)。このとき KIは担体として働くわけではなく、211Atと反応して[211At]AtI(またはAtI2-)のような中間体を形成し、この中間体がボロノ基置換反応を促進して高収率を達成すると考えられた(図2)。 ボロン酸置換反応による211At標識方法は、有害試薬や有機溶媒を一切使用することなく、水溶液中の温和な条件下で目的化合物を高収率で合成することができる。また本法は、低分子化合物に限らずペプチドおよび高分子にも利用できるので、211At標識医薬品の製造に適していると考えられる。 Large amino acid transporter 1(LAT1)は、1989年に金井好克博士によって発見された、がん細胞型アミノ酸トランスポーターである4)。大型中性アミノ酸を輸送するLAT1は正常組織にはほとんど発現せず、がんの増悪度と相関することから、がんの治療標的として注目を集めている。また、LAT1はさまざまながんに発現しているため、がん種を問わない広い応用が可能である。実際に群馬大学ではLAT1選択性の高い化合物を用いた診断用PET薬(L-[3-(18)F]-α-methyltyrosine:18F-FAMT)の臨床試験が行われている。大阪大学でもLAT1に選択性の高いPET薬(18F NKO-035注射液)の設計・開発・大量製造に成功しており、特定臨床研究の形でFirst in human試験での安全性がすでに確認されており、現在、肺がん患者での有効性の評価を行っている。これらのPET薬を用いることで、従来のFDG-PET画像診断での炎症性病変における偽陽性所見を低を標的とした膵臓がん治療
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