α線核医学治療の大阪大学における取り組み〔SUMMARY〕 α線核医学治療（Targeted Alpha Therapy：TAT）は、がん細胞に高エネルギーを放出するα線核種を送達し死滅させる薬剤療法の1つであり、難治性がんの新規治療法として注目されている。筆者らは、α線短寿命核種であるアスタチン211（211At）ならびにこれを標識した薬剤候補化合物を開発し、その評価を行っている。本稿では、大阪大学を中心に遂行している部局を越えた共同研究開発のこれまでの成果として、211Atの製造／精製、ターゲッティング分子の合成、ならびに医師主導治験までの道のりを概説する。Targeted Alpha Therapy （TAT） is one of the drug therapies to kill cancer cells by delivering high-energy alpha emitting nuclides to them. We have been developing and evaluating a short-lived alpha emitting nuclides, astatine-211 （211At）, and drug candidate compounds labeled with it. In this article, we review the results of our cross-departmental collaborative research and development, mainly conducted at Osaka University, including the production/purification of 211At, synthesis of targeting molecules, and the path to clinical trials.MEDCHEM NEWS 32（2）93-98（2022）93Keyword Targeted Alpha Therapy, TAT, Astatine-211, Alpha emitting nuclides樺山一哉Kazuya Kabayama＊1・白神宜史Yoshifumi Shirakami＊2・兼田加珠子Kazuko Kaneda＊3・渡部直史Tadashi Watabe＊4・豊嶋厚史Atsushi Toyoshima＊5盤機構を主軸としたプロジェクトを推進中である。最近は、α線核種であるアスタチン211（211At）の製剤化に注力している。211Atは半減期が7.2時間のα線のみを放出する短寿命核種で、ハロゲン元素であることから、共有結合により薬剤分子に導入することができる。また、特性X線によるイメージングも可能であるため、セラノスティクスへの展開が期待される。現在までに、甲状腺がんに集積する［211At］NaAtや、がん細胞型アミノ酸トランスポーターを標的とした211At標識アミノ酸誘導体、211At標識金ナノ粒子などを創製し、研究成果のプレスリリースも実施された。その他にも211At標識抗体を作製し機能評価を行っている。現在では、大阪大学医学部附属病院において［211At］NaAtを用いた医師主導治験も開始している。本稿では、これらの211At薬剤候補の創製に関する最新の知見ならびに211At製造分離に関するこれまでの成果を紹介させていただく。2. ボロン酸置換反応による211At標識フェニル 周期表の中のアスタチン（At）はヨウ素のすぐ下に位置し、ハロゲン族に属する。すなわちアスタチンの化学的性質は、おおむねヨウ素に類似している。ヨウ素の放射性同位体（123I、131I等）で標識された医薬品は、核1.はじめに 現在、わが国のがん患者の1/3は初診時において「進行がん」と診断され、5年生存率15%以下という状況の中、放射性医薬品を用いた核医学治療が最近注目を浴びている。これまでの上記薬剤には、比較的エネルギーの低いβ線核種が主に用いられていたため、治療効果が十分でないケースが問題であった。そこで登場したのがα線核種を用いた核医学治療法である。α線の飛程は細胞1個分程度であるため、患部にうまく集積できればピンポイントの細胞殺傷が可能になる。また遮蔽が容易なことから特殊な治療病室が不要となり、通院治療も可能となる。 大阪大学では、α線核医学治療（Targeted Alpha Therapy：TAT）によるがん克服に向けて、理学研究 科、医学系研究科、核物理研究センター、放射線科学基＊1 大阪大学 大学院理学研究科 天然物有機化学研究室 准教授 Associate Professor, Department of Chemistry, Graduate School of Science, ＊2 大阪大学 放射線科学基盤機構 特任准教授 Associate Professor, Institute for Radiation Sciences, Osaka University＊3 大阪大学 放射線科学基盤機構 特任准教授 Associate Professor, Institute for Radiation Sciences, Osaka University＊4 大阪大学 大学院医学系研究科 放射線統合医学講座 核医学 助教 Assistant Professor, Department of Nuclear Medicine and Tracer Kinetics, ＊5 大阪大学 放射線科学基盤機構 特任教授 Osaka UniversityGraduate School of Medicine, Osaka UniversityProfessor, Institute for Radiation Sciences, Osaka UniversityActivities of Targeted Alpha Therapy at Osaka Universityアラニンの合成
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