MEDCHEM NEWS Vol.32 No.2
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92AUTHOR光量子収率が8倍(高濃度Ca2+存在下/Ca2+非存在下)の変化を示した。これは、Ca2+非存在下において光誘起電子移動により蛍光が消光しているのに対し、Ca2+が配位後、光誘起電子移動が起こらなくなり、発蛍光するというメカニズムである。さらに、細胞膜透過性体であるCaTM-3 AMをHeLa細胞に応用したところ、細胞質全体からCaTM-3の赤色蛍光が観察された。そこで、CaTM-3 AMをロードしたHeLa細胞にヒスタミン刺激を行った結果、細胞内Ca2+濃度の変動を蛍光強度の変化として観察することに成功した。5. おわりに 深赤色から近赤外波長領域をカバーする蛍光プローブの母核となる新たな蛍光団の開発によって、この波長領域の蛍光プローブの開発を大きく推進し、動物体内でのin vivo蛍光イメージングやマルチカラーイメージング技術に貢献した。筆者らが開発した蛍光プローブの一部は市販化までされており、例えば、深赤色Ca2+蛍光プローブであるCaTM-3 AMは市販化され、多くの研究者へと供給されている。また、このようにキサンテン環の酸素原子を他の原子へと置換して、吸収・蛍光波長を変化させる手法は、筆者らが確立して以来、他の研究グループによっても取り組まれており、リン原子17)や炭素原子18)に置換したrhodamine類やフルオレセイン類の蛍光イメージングへの応用が行われている。また、このような長波長の蛍光プローブは上記のとおり、GFPやYFPといった汎用される蛍光タンパク質とは蛍光波長が重ならず、マルチカラーイメージングに有用であるだけでなく16)、阻害剤スクリーニングといった酵素活性のアッセイにおいても有用であると考えている。例えば、筆者らは以前に、フルオレセインの蛍光団骨格を母核として、硫化水素(H2S)を検出する蛍光プローブを開発し19)、それを用いて、硫化水素産生酵素である3MST(3-mercaptopyruvate sulfurtransferase)の選択的阻害剤の開発に世界ではじめて成功した20)。その際、約17万の化合物ライブラリーの中には、フルオレセインの蛍光波長領域に蛍光を示す化合物が存在し、そういった化合物に関しては酵素活性を適切に測定することはできなかった。今回紹介した長波長の蛍光団を用いた蛍光プローブを利用することで、このようなライブラリー化合物からの蛍光の影響を排除することができると考えている。このように、蛍光プローブの長波長化によって、生命現象の解明を通した新たな創薬標的の同定や、高精度な阻害剤スクリーニングを実施することができ、創薬プロセスにおいて大きく貢献すると期待している。参考文献 1) Weissleder R., Ntziachristo V., Nat. Med., 9, 123‒128 (2003) 2) Ikeno T., et al., Chem. Asian J., 12, 1435‒1446 (2017) 3) Kushida Y., et al., Analyst, 140, 685‒695 (2015) 4) Giepmans B.N.G., et al., Science, 312, 217‒224 (2006) 5) Fu M., et al., Chem. Commun., 1780‒1782 (2008) 6) Kushida Y., et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 22, 3908‒3911 (2012) 7) Koide Y., et al., J. Am. Chem. Soc., 134, 5029‒5031 (2012) 8) Hanaoka K., et al., Chem. Commun., 54, 6939‒6942 (2018) 9) Numasawa K., et al., Analyst, 145, 7736‒7740 (2020)10) Egawa T., et al., J. Am. Chem. Soc., 133, 14157‒14159 (2011)11) Piao W., et al., Angew. Chem. Int. Ed., 52, 13028‒13032 (2013)12) Hoshino Y., et al., RSC Chem. Biol., in press.13) Egawa T., et al., Chem. Commun., 47, 4162‒4164 (2011)14) Hirabayashi K., et al., Anal. Chem., 87, 9061‒9069 (2015)15) Hirabayashi K., et al., Cell Calcium, 60, 256‒265 (2016)16) Egawa T., et al., Angew. Chem. Int. Ed., 52, 2874‒3877 (2013)17) Fukazawa A., et al., Chem. Commun., 52, 1120‒1125 (2016)18) Grimm J.B., et al., Nat. Methods, 12, 244‒250 (2015)19) Sasakura K., et al., J. Am. Chem. Soc., 133, 18003‒18005 (2011)20) Hanaoka K., et al., Sci. Rep., 7, 40227 (2017)花岡健二郎(はなおか けんじろう)2000年 東京大学薬学部卒業2002年 同大学大学院薬学系研究科修士課程修了2005年 同大学大学院薬学系研究科博士課程修了同 年 博士(薬学)(東京大学)2005年 米国University of Texas, Southwestern Medical Center, Research Fellow2007年 東京大学大学院薬学系研究科助教2010年 東京大学大学院薬学系研究科講師2011年 東京大学大学院薬学系研究科准教授2021年より現職Copyright © 2022 The Pharmaceutical Society of Japan

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