3. 新規蛍光団:Si-rhodamine類88図1 生体による光の吸収と蛍光イメージングにおけるカラーウィンドウ図2 Cyanine色素の1つであるインドシアニン グリーン(ICG)を用いた蛍光プローブ開発を紹介するとともに2,3)、このような長波長の蛍光プローブの創薬における可能性についても議論したい。2. 光の組織透過性とマルチカラーイメージング 一般に可視光領域は、紫色の400nm付近から赤色の750nm付近までの波長領域であり、この中でも主に400nmから650nm付近の可視光の光は蛍光イメージングに汎用されてきた。2000年頃より、650nmから900nmの波長領域は、バイオイメージングにおける近赤外領域として注目され、盛んにこの波長領域に蛍光を示す蛍光プローブの開発が行われてきた。近赤外領域の波長の 光は、自家蛍光が低く、組織透過性に優れているため (図1:グラフ)、生きたままの動物体内での蛍光イメージングへの応用が注目された1)。波長が650nm以下の可視光領域では主にヘモグロビンによって、900nm以上の波長領域では水の吸収が大きくなるため、この中間の650nmから900nmの近赤外光領域では、生体組織の構成物質による光の吸収は少なく組織透過性が高い。そのため、この領域は「生体の光の窓」と呼ばれている。また、生細胞での蛍光イメージングにおいても、600nmおよび650nm付近の蛍光波長は、それぞれカラーウィンドウの1つとして利用可能であり、マルチカラーイメージング技術の進展に貢献すると期待される(図1:イラスト)4)。しかしながら、このような近赤外領域に蛍光を発する蛍光プローブの母核としては、cyanine色素 (図2)が最も代表的な蛍光団の1つであるが、その化学的安定性の低さや、蛍光プローブへの有機化学的な修飾の困難さなどから、実用的な蛍光プローブの数は限られている。そのため、このような長い蛍光波長領域で、蛍光プローブの母核として汎用性の高い新たな蛍光団の創製が必要とされた。 蛍光プローブの母核となる蛍光団の必要条件として、①安定かつ高い蛍光量子収率をもつこと、②多数の誘導体の合成が容易にできること、③高い水溶性かつ水中で強い蛍光を示すなどの条件が必要とされる。また、分子軌道計算などによる予測によっても一から新たな蛍光団を開発することは難しいのが現状である。そこで筆者らは、キサンテン環10位の酸素原子をSiMe2に置換することで長波長化した蛍光団である『TMDHS』に着目した(図3A)5)。このようなキサンテン環構造における酸素原子のケイ素原子への置換によって、rhodamine類(図3B)においても同様な長波長化ができると考えた。
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