4. 発現の持続期間を延長する戦略79文献13より改変。Copyright©2020, Dirisala A. et al.図2 肝類洞壁のPEG被覆によるミセル吸着の抑制 性を示すことに成功した。 この報告の後も、ブロック共重合体の精密設計やmRNAの分子設計を組み合わせることで、血液中での酵素分解耐性を飛躍的に向上することに成功した1,6)。しかしながら、安定化したミセルであっても、特に投与後数分の間に急速に血液中から消失しており、他のクリアランスメカニズムの存在が推測された。この点を、酵素分解と独立して評価するために、酵素分解耐性の比較的強いpDNAを内包したミセルを用いて、体内動態を観察した。すると、PEGで覆われたミセルであっても、肝類洞壁に吸着していることが明らかとなった。肝類洞内皮細胞上のスカベンジャー受容体を介した取り込みに加え、肝類洞壁に豊富に存在するアニオン性のプロテオグリカンが、ミセル内核の露出したカチオン性部分を認識することが原因と推測された。この課題に対して、ミセル表面のPEG密度を向上させる方法も考えられたが、設計が複雑になることが懸念された。そこで、肝類洞壁をPEG被覆することを着想した13)。PEG鎖を肝類洞壁に吸着させるために、スカベンジャー受容体やプロテオグリカンと結合するカチオン鎖を、PEGに連結した。長鎖のポリカチオンは毒性を有するため、重合度約20のオリゴリシンを用いた。40kDaのPEG鎖を2本結合させたオリゴリシンは、肝類洞壁に選択的に吸着した(図2)。さらに、この2本鎖PEGオリゴリシンは、6時間程度で胆汁排泄されたことから、肝類洞壁への作用は一過的であると推測され、安全性は担保された。肝類洞壁をあらかじめPEG被覆することで、その後投与したpDNA内包ミセルの肝類洞壁への吸着が抑制され、その血中滞留性が飛躍的に向上した。さらに、マウスに皮下移植した大腸がんに対するpDNA導入効率も10倍近く向上した。このように、肝類洞壁のPEG被覆により、全身投与したミセルは肝臓を介したクリアランスが抑制され、結果的に標的組織への集積性が向上する。現在、このシステムを、mRNA内包ミセルに展開している。 mRNAを用いた疾患治療では、mRNAが細胞内で速やかに代謝されるため、十分な発現の持続期間が得られないことが課題である。内因性mRNAの細胞内半減期は約10時間で14)、外来mRNAの半減期はさらに短いとされている15)。この課題に対して、カチオン部分の精密設計により、細胞内でのカチオンとmRNAの親和性が向上し、細胞内での酵素分解からmRNAを保護することができる。例えば、ブロック共重合体のカチオン部分に、ポリアスパラギン酸側鎖にアミノエタンが2回繰り返したPEG-PAsp(DET)と3回繰り返したPEG-PAsp(TET)を用いてミセルを調製し(図1A)、関節内に投与したところ、PEG-PAsp(TET)の方がより長期間にわたって、タンパク質を産生した10)。詳細なメカニズムは不明であるが、mRNAとの結合に関与する第1級アミンのプロトン化率が、PEG-PAsp(TET)の方が高かったためと推測される16)。このシステムは、上述のように、変形性関節症モデルの治療において優れた効果を示している。 その後も、発現の持続期間を延長するカチオン構造について、継続的に研究を進めている。オリゴアルギニン(OligoArg, 図1B)と、そこにα-アミノイソ酪酸(Aib)を挿入したオリゴペプチド(OligoArg-Aib, 図1C)をmRNAと混合して複合体を形成させ、培養細胞へ投与した17)。すると、OligoArg-Aibからなる複合体において、細胞内でmRNAがより強く安定化され、タンパク質発現が長期間持続した。ここで、細胞内半減期が1時間未満の改変ルシフェラーゼタンパク質をレポーターと
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