(A)PEG-ポリカチオンブロック共重合体。PEG-PAsp(DET)(r = 2)、PEG-PAsp(TET)(r = 3)。 (B)OligoArg。(C)OligoArg-Aib。3. 高分子ミセルの全身投与78図1 カチオン鎖設計による細胞内mRNA分解の抑制 は約50nmである。PEGで被覆され、電気的に中性であることに加え、ポリカチオンの部分が生体内で自己分解する構造であるため、このミセルの安全性は極めて高い。さらに、mRNA医薬では、mRNA自体の免疫原性が問題となっているが、ミセルに内包することでmRNAの免疫原性を軽減できる7)。遺伝子改変細胞を用いた解析では、naked mRNAや市販の脂質性試薬を用いた場合、1本鎖RNAを認識するToll様受容体(TLR)7を介した自然免疫応答が惹起されるのに対して、ミセルに内包するとこの免疫応答が回避された。mRNAをミセルに内包することで、PEGのステルス作用により、エンドソーム内でのTLRによるmRNA認識が回避されたと推測される。マウスの脳脊髄液へ投与したところ、naked mRNAは、投与局所に強い炎症反応を惹起したのに対して、mRNA内包ミセルでは、ほとんど炎症反応がみられなかった。 ここで、mRNA投与に伴う毒性は、安全面での問題となるだけでなく、組織保護、修復治療に用いた場合、その治療過程を妨げる懸念もある。例えば、3次元培養肝細胞へのプラスミドDNA(pDNA)導入において、ミセルを用いた場合、長期にわたって肝細胞が有する内因性アルブミン産生能が保たれたのに対して、脂質性試薬を用いると、アルブミン産生能が消失した8)。また、培養細胞への骨分化誘導因子のpDNA導入において、市販の脂質性導入試薬とミセルを比較したところ、前者の方が優れたpDNA導入効率を示したものの、後者の方が高い骨分化誘導能を示した9)。脂質性導入試薬の毒性により、細胞がもつ分化誘導能が失われたものと推測される。すなわち、核酸導入システムの安全性は、標的細胞の内因性機能維持に重要であり、細胞機能は疾患治療過程に大きく影響し得る。 このような知見に基づき、mRNA内包ミセルを用いた治療では、主に組織保護、修復治療を標的としている。とりわけ、局所投与では、標的組織中でのmRNAキャリアの濃度が高くなるため、ミセルのような安全なキャリアの応用が必須となる。実際に、動物モデルを用いた変形性関節症に対する軟骨形成因子Runx1 mRNAの関節内投与による軟骨保護治療10)、脳虚血性疾患に対する脳由来神経栄養因子(BDNF)mRNAの脳室内投与による神経保護治療11)において、ミセルは優れた効果を示している。 局所投与では、投与手技がしばしば煩雑で侵襲的なことも多い。より汎用性のあるシステム構築のために、ミセルの全身投与にも取り組んでいる。ミセルが投与後速やかに標的細胞に到達する局所投与の場合と比べ、全身投与では血液中をミセルがある程度の時間、循環する必要があり、その期間mRNAを酵素分解から保護する必要がある。そこで、mRNAと結合するカチオン部分の構造最適化に加え、ブロック共重合体への疎水性コレステロール基の導入を行うことで、ミセル構造を安定化させたところ、mRNAの血液中での酵素分解が軽減された12)。次に、そのミセルの応用にあたって、脂質性ナノ粒子を用いた送達が難しいとされている肝臓以外の組織を対象とした。膵臓がんの皮下移植マウスに対して、安定化した高分子ミセルを静脈内投与したところ、腫瘍においてmRNAからの効率的なレポータータンパク質の発現が得られた。さらに、血管新生を阻害するmRNAを投与したところ、腫瘍増殖の有意な抑制効果が得られた。このようにミセル全身投与による疾患治療への有用
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