J-PUBLIC, all Japan compound library, chemical space, open innovation〔SUMMARY〕1.はじめに2. 化合物ライブラリの現状と設立の背景72MEDCHEM NEWS 32(2)72-76(2022)Keyword *1 アステラス製薬株式会社 開発研究ディスカバリーインテリジェンス アド岩岡はるなHaruna Iwaoka*1 近年、遺伝子や細胞など新たなモダリティが出現し、低分子化合物では制御できなかった疾患の治療が可能となったが、これらのモダリティは薬価やデリバリーの課題や狙える創薬標的の制限などがあり、低分子はいまだ医薬の多くを占める強力な治療手段と考えられる。低分子創薬を行ううえで起点となる化合物を得るにあたって、現在でも化合物ライブラリを用いたHigh throughput screening(HTS)は重要な手段である。標的タンパク質を用いたvirtual screeningやDNA encoded library1)といった手法が着目を集める一方、iPS細胞等を用いた表現型スクリーニングが実施される2)などHTSも多様化し、得られるヒット化合物も多様化している。 最近では、創薬エコシステムの構築が進むなかで、各社の化合物ライブラリの扱いや活用方法が大きく変化している。日本の製薬企業が世界の競合企業と比較して遜 2020年4月、国内企業9社が「日本パブリックライブラリコンソーシアム(J-PUBLIC)」を設立した。J-PUBLICは多様性ある化合物ライブラリを共同管理、および利用するコンソーシアムであり、All Japanとしての化合物ライブラリ構築を進めていくことを目指している。その第一歩として、“会員(企業)”のライブラリ共有を開始、ついで、新たな参加区分として“会員(アカデミア)”を設け国内研究機関へのライブラリ利用開放を開始した。本稿では、コンソーシアム設立の背景、その特徴、および多様性ある化合物ライブラリ構築への期待について紹介する。“Japan Public Library Consortium (J-PUBLIC)” has been established by nine companies in April 2020. J-PUBLIC is a consortium, that jointly manages and uses diverse compound libraries, aims to construct of “All Japanʼʼ Compound Library. As the first step, we started sharing the library of members (companies), and then established members (academia) as a new participation category and opened the library to Japanese academia. This article describes the background and characteristic of the consortium as well as expectations for diverse compound library.色ない研究を進めるためには、ライブラリの多様性を高めていく必要があるが、日本の企業の規模では適切な化合物数と多様性を維持したライブラリの管理を1社単独で担うことは難しくなっている。 上記の課題の解決のために、J-PUBLICが国内企業 9社により2020年4月に設立された。J-PUBLICは、“会員(企業)”のみの利用にとどまらず、アカデミア等国内研究機関への利用開放を行うため、2021年に“会員 (アカデミア)”を新たな参加区分として設けた。 本稿では、化合物ライブラリおよびJ-PUBLICの現状と設立の背景、特徴、産学連携の取り組み、今後の展望について述べる。 化合物ライブラリは、各社における主に社内合成や化合物サプライヤからの購入により整備され、門外不出の財産として独自の発展を遂げてきた。創薬ターゲットが難化するに従い、近年、ライブラリの多様性拡大を求 める動きが活性化している。例えば、AstraZenecaとBayerは2013年に2社間のライブラリ相互利用、2015J-PUBLIC -Toward Construction of “All Japan” Compound Library-バンスモデリング&アッセイ研究室 室長Senior Director, Advanced Modeling & Assay, Discovery Intelligence, Applied Research & Operations, Astellas Pharma Inc.J-PUBLIC日本パブリックライブラリコンソーシアムの取り組み─All Japanとしての化合物ライブラリ構築を目指して─
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