69Fig.2 NTD Drug Discovery Boosterの概略DNDiは、シード化合物としてシャーガス病あるいはリーシュマニア症のどちらかあるいは両方の病原体に殺虫活性を持つことがすでに知られている化合物の構造をコンソーシアムに提示する。提示された構造式を持ち帰ったコンソーシアムの各メンバー企業は、自社の化合物ライブラリーの中で、シード化合物に「類似した」化合物の検索をコンピューター上で実施する(Fig. 2 ①)。この「類似した」化合物を探索する際に使用するソフトウエアやノウハウが各社独自のものであることに加え、各社の化合物ライブラリー自体がユニークなものであるため、選ばれる化合物にはメンバー企業各社の多様性が反映されることになる。 このようにして各社から選ばれた各々数十個程度の化合物は、ソウルにあるInstitut Pasteur Korea(IPK:韓国パスツール研究所)において、シャーガス病、リーシュマニア症の両病原寄生虫に対する活性や宿主細胞に対する毒性など多くの情報がHigh Throughput Screening/High Contents Screening(HTS/HCS)により一度に評価され、DNDiにより解析される(Fig. 2 ②)。この時点では、化合物に関する情報をもっているのは、提供元のパートナーとDNDiの2者間のみに限定されている。 DNDiの解析により、最も興味のある化合物がImproved Hitとして選択され、化合物提供者の同意が得られると、はじめてその化合物に限定した情報が、他のコンソーシアムメンバーと共有される(Fig. 2 ③)。DNDiはこの化合物を二次のシード化合物として各パートナーに開示するとともに、再度、各社ライブラリーにおける類似化合物の探索を依頼する。ここからは、各社での一次スクリーニングと同じプロセスを経て、再び各々数十個の化合物を選択・提供いただき、活性の測定を実施する。このようなサイクルを複数回繰り返すことにより、場合によっては活性が2桁以上も向上したり、元のシード化合物とは母核構造がまったく異なる活性体が見出されたりするなど、各社独自のインシリコ検索とライブラリーの多様性を活用することの大きなメリットが実証された。 Fig. 3に示したのは、Boosterのプロセスにより、殺虫活性と体内動態プロファイルの向上が見られた化合物の例である。DNDiが最初に提示した左側のシード化合物が、各社協働のインシリコスクリーニングを繰り返すなかで、中央に示した化合物が見出され、殺虫活性が10倍向上している。さらにパートナー間でのディスカッションに基づき合成された誘導体では、活性を維持したまま、PKプロファイルの向上した右側の化合物が見出された。本化合物は、マウスを用いたリーシュマニア症感染モデルにおいて、50mg/kg BIDで寄生虫量が95%以上減少するとの結果が得られている。 Fig. 4では、Boosterの過程で化合物の母核構造が大きく変わった例を示している。DNDiが最初に提示した左側のシード化合物が、各社協働のインシリコスクリーニングを繰り返すなかで中央に示した化合物が見出され、殺虫活性が100倍向上した。さらにパートナー間でのインプットに基づき合成された誘導体では、殺虫活性が保たれたまま、良好なPKプロファイルを得ることができた。例で示したように、最初に提示した化合物から
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