4. DMPの基本戦略と今後の展望643-3.網膜の再生医療プロジェクト 2014年、世界初のiPS細胞の臨床応用として、加齢による網膜変性疾患の患者に対し、自身のiPS細胞から作製した(若返った)網膜色素上皮細胞を移植する手術が、理研の高橋政代プロジェクトリーダー(当時)を中心とする研究グループにより実施された。これもDMPが支援したプロジェクトの1つである。その後、2017年には京都大学iPS細胞研究所との連携により、他人のiPS細胞から作製された網膜色素上皮細胞の移植が行われた。さらに2020年には生命機能科学研究センター網膜再生医療研究開発プロジェクトの万代道子副プロジェクトリーダー(当時)らにより、視力喪失につながる遺伝性の難病を対象に、iPS細胞から作製した視細胞を含む網膜組織を移植する臨床研究も開始されている。これもまた理研での長年にわたる着実な基礎研究が実を結んだものである(図4C)。4-1.ターゲットとモダリティー 「特定の病態を制御しうるターゲット分子(創薬標的)」、そして「そのターゲット分子を制御しうるモダリティー(創薬技術)」、この2つの要素が揃ったときに成立するプロセスが創薬である。「ターゲット×モダリティー」から生じたプロダクトが疾患の症状を改善し、さらには治癒に至ることが証明されたときに、医薬品としての価値を獲得する。 1980年代以降に発展した分子生物学は、単細胞生物~多細胞生物のシグナル伝達、生理的メカニズムを明らかにし、ひいてはヒトの病態メカニズムを分子レベルで語ることを可能とした。「ターゲット」と「モダリティー」の2つの要素は、いずれも生体の分子メカニズム解明から生まれてきている。さまざまな疾患の分子レベルでの発症、進展メカニズム解明が進み、多くの創薬ターゲットが日の目を見る機会を得た。そのターゲットを制御するモダリティーも、長い歴史を誇る有機合成のみならず、遺伝子組み換えによるタンパク医薬、抗体医薬、核NKT細胞を供給する方法を開発した。本プロジェクトについては、日本医療研究開発機構(AMED)の研究資金を得て、2020年より千葉大学医学部付属病院において頭頚部がんを対象とする医師主導治験が実施されている(図4B)。4-2.DMPの基本戦略 創薬・医療技術基盤プログラムが果たす役割は、一言でいえば「ターゲット×モダリティー」の進化を理研のサイエンスとテクノロジーを梃としてさらに加速させることにある。本プログラムはスタート以来、臨床ステージアップ/企業ライセンス16件という大きな成果を上げてきたが、殊にオリジナリティの高い新規モダリティーである人工アジュバントベクター細胞技術は、臨床段階に進み、今後の創薬に大きな影響を与える可能性を秘めている。2021年度からの新体制のDMP創薬は、明確なアンメットニーズに焦点をあて、斬新なモダリティーと新たなターゲットに着目して創薬を進めて行くことになる。DMPの基本戦略は以下の3項目に要約される。1) 新規モダリティーを創出し、パラダイムシフトを促酸医薬、細胞・再生医薬、そして遺伝子治療やゲノム編集技術へと進化してきた。創薬の世界においては、たゆみない「ターゲット×モダリティー」の進化により、多くの新薬が生まれ、過去のアンメットニーズの在り方を大きく転換してきた。成人病といわれる疾患の多くは、かなりの程度、制御可能な領域に入ってきている。とはいえ、いまだ対症療法に過ぎない場合も多く、個々人を見極めた完全な治癒を理想とすれば、まだまだ満足できるレベルには到達していない。また、モダリティーのバラエティーは増えたが、病態にとって最適なレベルには程遠いと考える。す。・ タンパク医薬、抗体医薬、核酸医薬、細胞医療、遺伝子治療のような汎用性の高いモダリティーを創出する。・ 人工アジュバントベクター細胞技術のように特定の疾患領域にパラダイムシフトを促す斬新な新規モダリティーを創製する。・ 細胞・再生医療のような病態特異的な新規モダリティー技術を創製する。2) 新規創薬ターゲットを見出し、アンメットニーズに応える。・ アンメットニーズが明確な疾患にフォーカスし、希少疾患、感染症、中枢疾患、免疫疾患等、理研創薬の強みが生かせる疾患を優先する。・ 新型コロナ特別プロジェクトで低分子医薬・抗体医薬・人工アジュバントベクター細胞技術と理研がも
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