MEDCHEM NEWS Vol.32 No.1
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3.多くを学んだバイオ後続品の研究開発3-1. JR-051(アガルシダーゼベータBS)開発: バイオ後続品であるがゆえの困難9表1 当社が製造販売承認を取得したバイオ後続品エポエチンアルファBS注アガルシダーゼベータBS点滴静注ダルベポエチンアルファBS注品目開発コード宿主細胞CHO細胞CHO細胞CHO細胞適応症腎性貧血ファブリー病腎性貧血JR-013JR-051JR-131承認年月日2010.01.202018.09.212019.09.20因酵素イズロン酸-2-スルファターゼに本技術を適用したJR-141(パビナフスプアルファ)の開発に成功しており、すでに臨床で使われている(イズカーゴ®)。本品は、病態モデル動物への静脈内投与で、末梢臓器に加えて脳・脳脊髄液中に蓄積している基質(GAG:グリコサミノグリカン)を減少させ、空間学習能力と記憶力を野生型とほぼ同レベルに維持できることが確認されている。臨床試験においても、脳脊髄液中のヘパラン硫酸(GAGの1種)を著明に減少させ、神経発達評価でも良好な結果を確認している。現在、当社はハンター症候群以外の中枢神経症状がある各種ライソゾーム病に対して、J-BrainCargo®を適用した酵素を順次開発しており、第2弾として、ハーラー症候群(ムコ多糖症I型)を対象としたJR-171のグローバル臨床試験を実施中である。 遺伝子組換えバイオ医薬品の多くは糖タンパク質である。タンパク質の糖鎖修飾は、生産細胞株クローンの特性、培養・精製条件によって大きく異なってくる。したがって、糖タンパク質医薬品のバイオ後続品開発では、糖組成および糖鎖構造を先行バイオ医薬品にいかに近づけるかが鍵となる。当社では表1に示す3品目のバイオ後続品の製造販売承認を取得している。このうち、国産初のバイオ後続品となったJR-013については、2008年11月に新有効成分含有医薬品として申請したが、2009年3月に、医薬品の申請区分にバイオ後続品が追加されたことにより、本剤はエポエチンアルファ(EPO)のバイオ後続品として承認された。本項では、これら3品目のうちファブリー病の酵素補充療法剤アガルシダーゼベータとEPOの作用持続型類縁体ダルベポエチンアルファ(DP)のバイオ後続品の研究開発について、特に糖鎖修飾に着目して紹介する。 バイオ後続品とは、「先行バイオ医薬品と同等/同質の品質、安全性、有効性を有する医薬品」と定義されているが、同等/同質性については、「先行バイオ医薬品に対して、バイオ後続品の品質特性がまったく同一であることを意味するのではなく、品質特性に何らかの差異があったとしても、安全性や有効性に有害な影響を及ぼさないと科学的に判断できることを意味する」と説明されている。したがって、バイオ後続品開発では、先行品の品質特性を明らかにし、目標品質を明確にすることがまず必要である。JR-051開発においても、先行品の特性解析より目標品質を定め、製造工程の改良を重ねた結果、先行品と同等/同質の品質特性を達成できた。ところが、製造工程開発時に入手した先行品ロットと比較して、後になって入手したロットでは、重要な品質特性の1つであるマンノース-6-リン酸(M6P)含量が低値を示すようになった。このため、最終的に、本剤では先行品と比べM6P含量が高く、M6P受容体(M6PR)結合親和性は高くなり、その結果、M6PRを介した細胞内取り込み能の亢進がみられた。M6PRは、ライソゾーム酵素の細胞内取り込みとライソゾームへの輸送を担う。このため、本剤のM6PR依存性細胞内取り込みの亢進は、薬効(ライソゾームに蓄積した酵素基質GL-3の分解作用)に対しネガティブな影響を及ぼすものではなく、むしろポジティブに影響し得るが、両剤のM6P含量の差は、薬効に何らかの影響を及ぼすほど大きなものではなく、ファブリー病モデルマウスを用いた先行バイオ医薬品との薬効比較では両剤に差は認められなかった。ファブリー病患者を対象とした第Ⅱ/Ⅲ相試験では、本剤と先行品の有効性の同等性が立証され、安全性プロフィールにおいても問題はなく、本剤はアガルシダーゼベータのバイオ後続品として承認された。

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