R2R1R2R1R2OOONNNOOOHNOOHNNHONH 月桂冠株式会社 醸造部 生産技術課 課長MEDCHEM NEWS 32(1)47-47(2022)47OHOHHNCopyright © 2022 The Pharmaceutical Society of JapanOHNH 日本酒は、米を主原料として、清酒酵母Saccharo-myces cerevisiaeと麹菌Aspergillus oryzaeの2種類の醸造微生物が関与して造られている。それぞれ役割は異なり、麹菌は酵素を生成し米成分を分解し、清酒酵母は分解により生成されたグルコースを炭素源としてエタノールや香味に関わる成分を生合成する。この発酵過程には、香味成分やエタノールだけでなく、さまざまなペプチドが含まれ、機能性ペプチドも多く存在している。 麹菌が生合成する環状ペプチドには、デフェリフェリクリシン(Dfcy)があり、1960年代に日本酒の着色物質の探索から同定された。このDfcyは抗酸化活性を有する機能性物質である。Dfcyは溶解した状態では無色透明であるが、日本酒の仕込み中に含まれるFe3+と結合することで、フェリクリシン(Fcy)となり黄色から赤色に変化するため、“無色透明を良し”とする日本酒では、Fcyは厄介ものの物質とされていた。麹菌側から考えると、Dfcyは環境中から鉄獲得のため、ひいては生存のために必要である。Dfcyは麹菌の細胞内で二次代謝産物として生合成された後、細胞外へ分泌され、環境中のFe3+と結合したFcyを細胞内に取り込む。このDfcyが、鉄に特異的に結合するか否かの解明は、有機合成的な解析なしには成し得なかった。Dfcyの構造は2分子のセリン(Ser)、1分子のグリシン(Gly)および3分子のアセチル化されたヒドロキシオルニチン(Aho)という6つのアミノ酸で形成されている(図1)。このペプチドの順番を入れ替えることで、Fe3+との結合特性が変化することから、Ahoの3分子が連続して配置されていることも重要である1)。 日本酒や酒粕には、Dfcy以外にも多くの機能性ペプチドが含まれるが、これらは日本酒醸造中に麹菌の酵素が米タンパク質を分解して生成される。例えば、アンギオテンシン変換酵素阻害活性ペプチドや抗酸化活性ペプ参考文献1) Kobayashi K., et al., Bioorg. Med. Chem., 20, 2651-2655 チドなどがある。それらの同定にもペプチド合成(ペプチド標品)が大きく寄与しており、分析機器の発展によってペプチド定量が迅速に行えるようになった。発酵食品の機能性を探索する場合、機能性評価も混合物で行われるが、最終的には、個々のペプチドでの評価により、関与成分を同定・定量していくのは重要である。 「発酵」は水と微生物を、「有機合成」は有機溶媒と化合物を用いるため、一見すると異なる分野ではあるが、ペプチドという接点をもつことで、機能性物質の同定・定量、DfcyのFe3+結合の構造もわかってきた。「発酵」と「有機合成」の融合により、新たな知見が見出せることが期待される。(2012)図1 Dfcyの構造式堤浩子(つつみ ひろこ)1991年広島大学大学院工学研究科修士課程修了、同年月桂冠株式会社総合研究所、2001年4月~2003年3月(独)酒類総合研究所出向、2003年4月月桂冠株式会社総合研究所主任研究員、技術情報課課長、2019年4月総合研究所製品開発課課長、2021年4月醸造部生産技術課課長微生物の基礎研究や機能性研究を行い、現在応用部門を担当 AUTHOR 堤 浩子Coffee Break日本酒とペプチド
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