44図7 合成終盤で適用可能なH-D交換反応の例図6 高温・高圧反応条件で進行するH-D交換反応を使用する標識法開発が、コスト削減や実用性の観点で必須項目といっても過言ではない。しかし、C-HをC-Dに直接変換するには強酸・強塩基・高温・高圧などの反応条件が求められており、オートクレーブを使う必要があるなど、官能基適用性を含めて困難な点が多く、実用化を目指す場合の大きな障壁であった。 例えば、重塩酸(DCl)や水酸化ナトリウム(NaOH)などの強酸・強塩基条件下に、D2O中270~430℃で強熱して芳香環を完全に重水素標識する方法(図6eqs.1and2)が報告されているが、反応条件に耐えられる官能基は限定される。またパラジウム炭素(Pd/C)存在下、250℃、40~50気圧で進行する多重重水素標識法も報告されているが、カルボン酸が反応中に脱炭酸してしまうなど(図6eq.3)、官能基耐性などの観点から穏和な条件で進行するH-D交換反応の開発が重要である19)。 ここに示した以外にも、酵素反応やマイクロウエーブを利用した反応など、重水素標識するための反応はさまざま報告されているが、反応効率、エネルギー効率、あるいは基質一般性などの観点から、実用的な方法論として確立するための解決すべき問題が山積していた。 最近では、目的の部位(医薬品や生物活性物質では代謝・分解作用点近傍)、あるいは分子全体を、合成終盤で重水素標識する方法が盛んに研究されるようになってきている。Hartwigらは、医薬品やその前駆体に重メタノール(CH3OD)中、銀触媒(Ag2CO3)を作用すると、ヘテロ芳香環オルト位が選択的に重水素化されることを報告した(図7eq.4)20)。またGermmerenらは、さまざまな芳香族化合物をヘキサフルオロイソプロピルアルコール(HFIP)とD2Oの混合溶媒中加熱撹拌して、酢酸パラジウムで芳香環C-Hのみを活性化することで重
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