MEDCHEM NEWS Vol.32 No.1
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3. DMTAサイクルのDx37(Design-Make-Test-Analyze:DMTA)サイクル図1  低分子モダリティ探索研究におけるデザイン-合成-試験-解析 3-1.Design:AIによる化合物デザイン 一般に、AIを活用した化合物デザインは、大量に発生させた化学構造から薬効やADMET等の予測を行い、それを基に良好なプロファイルと予測される化合物デザインを選ぶことで行われる(ADMET予測に関しては後述する)。典型例として、再帰型ニューラルネットワークと強化学習を組み合わせたREINVENTのように、望むプロファイルを有する化学構造を発生させるといった手法がある2)。筆者らも、構造発生と各種プロファイルの予測によって化合物をデザインするAIを開発している。はあくまでも概念上のものであった。しかし、DMTAサイクルのDxが実現できるならば、大幅な生産性向上が望めるに違いない。すなわち筆者らが目指すのは、人間の思考パターンや実験データを学習したAIを用いて得たアイデアを、ロボットが実験し、その結果をAIと人間がまた活用する、といったサイクルの構築である。現在のところ、AIに汎用性はなく、ロボットもまた全能ではない。よって、人間とAI、人間とロボットが協働する「Human-in-the-loop」型のサイクルが現実解と考え、これを実装すべくプロジェクトを開始した。すでに複数のAIの開発やロボットの導入を行い、ヒット化合物からのリード化合物創製、リード化合物の最適化に活用し成果を上げているので、次項から紹介したい。 この手法の課題としては、AIがリード化合物と構造が大きく異なる化学構造を発生してしまうと、薬効を正確に予測することが難しいという点がある。ADMET等の予測プロファイルがたとえ良好であっても、薬効が弱い化学構造を大量に発生してしまう。これを回避する方法の1つとして、過去の研究においてメディシナルケミストが実際に行った構造変換の履歴を活用する方法がある。幸いにも自社にはこういった履歴のデータが社内データベースに大量に蓄積されていたため、そこからメディシナルケミストが常套とする構造変換のルールを抽出し、構造発生に利用している。具体的には、過去に各研究プロジェクト内で合成された化合物群のMMP(MatchedMolecularPair)を抽出して3)、これを構造変換ルールとして用いている。また、メディシナルケミストが各種予測の利用のためにユーザーインタフェースに入力した複数の化学構造からMMPを抽出して構造変換ルールを更新できるような工夫も行っている。さらに、論文等の情報を基にしたバイオアイソスターへの変換やビルディングブロックを基にした構造発生等、状況に応じてメディシナルケミストがこれらの構造発生手法を選択、または、組み合わせて使用できるようにしている(図2)。 このようにして発生させた多数の化学構造から実際に合成する化合物を選ぶ際には、AIが予測する個々のプロファイルに対してメディシナルケミストが重みを付けて、望ましいプロファイルを有するであろう化学構造を提示するシステムを構築し、利用している。例えば、低

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