MEDCHEM NEWS Vol.32 No.1
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〔SUMMARY〕2. ガウス過程回帰を用いる反応条件の最適化1.はじめにMEDCHEM NEWS 32(1)31-35(2022)31Keyword Gaussian process regression, Bayesian optimization, Python, Flow reaction*1 大阪大学 産業科学研究所 教授 笹井宏明Hiroaki Sasai*1 収率は高い方がいい。新規反応の開発でも、製品に直結するプロセスでも、収率が高ければアピール度が高まるし、工業的なプロセスでは利益が増えることになる。通常研究者は、反応温度や反応時間、溶媒の種類、さらに反応基質の濃度や触媒量といった、数多くの可変パラメーターをいろいろと変えて、実験を繰り返し、満足できる反応条件を探し出す。しかし、仮に5種類のパラメーターを5通りずつ変えて実験するだけで、5の5乗通り、3125通りもの実験をすることになってしまう。網羅的な反応条件探索はなかなか難しい。そこで研究者は「勘」を働かせて、例えば適当と思われる温度でさまざまな溶媒について検討を行い、そのベストな溶媒と温度の組み合わせで、反応基質の一般性をチェックし、触媒の種類をスクリーニングすることになる。しかし、触媒や反応基質の種類によっては、異なる温度や溶媒の方が適切である可能性もある。完璧に網羅的な実験をしようと思えば、自動分析機器を備えた自動合成装置を用いなければほぼ無理である。自動で実験を行ったとしても、試薬や溶媒の無駄は避けられない。教育の観点でも、反応条件をさまざまに変えて検討しているだけでは時間 反応条件の最適化は、網羅的に行おうとすると時間を浪費する。そこで反応条件の最適化に機械学習を適用した。ガウス過程回帰による反応条件最適化では、最適反応条件を図示しやすい半面、可変パラメーターの数が多くなると解析が困難である。そこでベイズ最適化を活用した反応条件の最適化を行ったところ、少ない数の学習データを基に、最適と考えられる反応条件の設定に成功した。Machine-learningassistedsimultaneousmulti-parameterscreeningisdescribed.Afterbriefexperimentalscreening,GaussianprocessregressioncouldrapidlypredicttheoptimalconditionsforasequentialorganocatalyzedRauhut-Currierand[3+2]annulationsequenceinaflowreactionsystem.Inaddition,Bayesianoptimizationwassuccessfullyappliedtoanelectrochemicaloxidationofaminestoimines.Theconcentrationofthesubstrateandelectrolite,current,reactiontime,andreactiontemperaturewereoptimizedusingsixexperimentaldata.を使う割に知識は身につかない。そこで、筆者のグループでは、機械学習を取り入れた反応条件の最適化に取り組んだ。 機械学習では、“R”や“Python”のような、比較的新しいプログラミング言語が汎用される。筆者らが利用したPythonは、無料で利用可能であり、Anacondaと呼ばれる科学技術計算のためのプラットフォームも無料で公開されている。Anacondaには、ガウス過程回帰や後述するベイズ最適化を行うための“GPyOpt”、数値計算を行うための“numpy”、また、グラフを描画する“matplotlib”など、これまでに開発された数多くのツールやライブラリがインストールされている。これらを利用することで、驚くほど短い行数のプログラムによって目的の機械学習プログラムが記述可能となる。 最初に、図1に示す化合物1の分子内Rauhut-Carrier(RC)反応と、これ引き続く[3+2]型の環化付加反応によるスピロオキシインドール類縁体4の合成条件最適化にガウス過程回帰を適用した。最初のステップの分子内RC反応による3の合成については、関連する反応を2017年に報告1)しているものの、バッチ型の反応で2aを含む連続反応を行うと44%という低収率で目的物4aが得られるに過ぎなかった。低収率の原因は、アレン酸Professor, SANKEN (The Institute of Scientific and Industrial Research), Osaka UniversityMachine-learning Assisted Optimization of Reaction Conditions反応条件探索への機械学習の応用

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