4. おわりに29図4 生成した構造とその類似度応答プロファイルベクトルとの間で相関係数を算出する。標的タンパク質に対する阻害薬を設計したい場合は、標的タンパク質の遺伝子ノックダウンプロファイルを、反対に標的タンパク質を活性化させたい場合は、標的タンパク質の遺伝子過剰発現プロファイルを入力に用いる。入力した標的摂動プロファイルに対し高い相関関係を有する化合物応答プロファイルに対応する分子を、発現類似化合物として選択する。次のステップでは、発現類似化合物をVAEに入力し、潜在空間をサンプリングし、decoderで復元することで新規化学構造を取得する。 提案した構造の有用性を、Bayer社で開発した構造生成器により得られた構造と比較することで検証した。図4に、TRIOMPHEと既往手法それぞれについて生成した構造と、既知リガンドに対する構造類似度を示した。構造類似度は、0~1の間の値を有し、1に近いほど、既知リガンドの構造に近いと解釈する。AKT1を標的とした構造生成では標的タンパク質の遺伝子ノックダウンプロファイルを入力とし、分子を生成した。提案手法による新規生成分子は、trifluoromethyl基を有していた。既知リガンドもまた、trifluoromethyl基を有している。また、双方の分子はアミド結合も有していた。一方、既往手法で生成された分子は歪みの大きいazetidine環を含んでおり、合成は容易ではないと予想される。EGFRを標的とした場合は、提案手法により生成した分子は既往手法により生成した分子よりも高いTanimoto係数を示した。末端のp位に位置するsulfonamide基周辺の構造は高い共通性が見られる。また、芳香環から移動しているものの、2つのフッ素原子も双方のリガンドで見られ、既知リガンドと共通の化学的特徴をもつ分子が生成された。TP53の活性化はがんの治療に有用であると期待されている。そこで、TP53を標的とした場合は、標的タンパク質の遺伝子過剰発現プロファイルを入力とし、分子を生成した。生成された新規生成分子もまた、既知リガンドと構造的に類似していた。主要構造であるdimethylsulfonamide骨格は、既知リガンドと新規生成分子の間で共通していた。この結果は、提案手法は阻害薬のdenovodrugdesignだけでなく、標的タンパク質の機能を活性化させる分子のdenovodrugdesignにも有用である可能性を示している。 本稿では、分子設計AIである構造生成器について概説し、筆者らが独自に開発した構造生成器であるTRIOMPHEを紹介した。TRIOMPHEの長所は、標的タンパク質に関する遺伝子発現プロファイルを取得することができれば、自動的にヒット化合物候補の生成が可能である点にある。標的タンパク質の高次構造情報や、リガンド結合部位の情報を用いないため、リガンド創製研究が十分に行われていない、オーファン受容体をはじめとする、新たな創薬標的を開拓できる可能性がある。また、単純にヒット化合物を創製するだけでなく、探索アルゴリズムを導入することで、ヒット化合物からリード化合物へ構造変換していくという使い方も考えられる。 TRIOMPHEは構造生成器の新たな展望を示すもので
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