4. フォワードドッキング計算を用いたin silico23図2 メインプロテアーゼと医薬品データベースを用いたin silicoドラッグリポジショニングの流れと、関連パスウェイとの相関解析により、特定の核内ホルモン受容体タンパク質群を副作用原因タンパク質として予測している。このアプローチの重要な点は、リバースドッキング計算の前に、タンパク質構造情報に基づく化合物結合部位の表面比較によって相互作用タンパク質候補を絞り込むことで、ドッキング計算による過剰(擬陽性)予測を低減させていると考察できる。 フォワードドッキング計算を用いたinsilicoドラッグリポジショニングは、通常のinsilicoスクリーニングのスキームで、化合物ライブラリーを医薬品データベースに置き換えたものとなる。このような用途は、主に新興感染症等の有事の治療薬開発の際に用いられる。筆者らは、近年、COVID-19の治療薬探索としてinsilicoドラッグリポジショニングを実施した2)。感染症におけるinsilicoドラッグリポジショニングでは、薬剤耐性や、新たな変異株の出現による影響も考慮したターゲットタンパク質の選定が重要となる。COVID-19感染拡大のなか、SARS-CoV-2のトランスクリプトオーム3)や個々の発現タンパク質の立体構造4)は次々と発表された。筆者らは、長いORF領域の切断による複製の責任分子であり、かつ立体構造が比較的早い段階で公開されたメインプロテアーゼをターゲットとした、タンパク質立体構造に基づくinsilicoドラッグリポジショニングを実施した。 スクリーニングライブラリーとなる医薬品データベースは、長浜バイオ大学の白井研究室と連携し、既存薬8,085品目を用意し、メインプロテアセーゼの活性部位立体構造に基づいたドッキング計算を行い、ドッキングスコアと相互作用フィンガープリント法により候補医薬品を選定した。 全体の流れを図2に示す。医薬品データベース中の個々の分子は、多様な水素付加やトートマーの可能性を考慮して最適化計算され、最終的に8,085品目の化合物は、全体で48,949構造数となった。一方、ターゲットタンパク質であるメインプロテアーゼについては、PDBコード6LU75)を用いて、水素付加、トートマー残基を考慮した最適構造を用意した。6LU7には、N3という医薬品候補化合物がメインプロテアーゼ活性部位に共結晶の状態で結合していたため、本研究では、N3の結合部位をドッキング計算における探索部位(グリッド設定)とした。メインプロテアセーゼと医薬品のドッキング計算には、GlideSPモード6)を利用し、標準設定とN3化合物の水素結合模倣設定を並列することで、候補医薬品の網羅的な結合様式を検討した。その後、メインプロテアセーゼと医薬品のドッキング候補データの順位は、ドラッグリポジショニングに関する研究
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