3. インバースドッキング計算を用いたin silico2. タンパク質-リガンドドッキング計算22図1 タンパク質構造情報に基づくin silicoドラッグリポジショニングのアプローチ タンパク質立体構造情報に基づいたインシリコ創薬技術全般において、タンパク質と化合物のドッキング計算は、重要な要素技術の1つとしてあげられる。ドッキング計算では、「探索」と「スコアリング」の2つの手順が行われる。探索とは、相互作用分子間の可能な配座、配向空間を調べることで、相互作用に無関係な探索空間の省略と、安定配座付近での徹底的な探索が課題となる。探索技術にはさまざまな方法が知られているが、形状相補性を用いた探索法は、高速に探索する方法の1つとして、さまざまなソフトウェアで実装されている。スコアリングとは、結合自由エネルギーをスコア関数で近似するもので、結合状態の真偽の判別や、実験値との高い構造活性相関が観測できるようなスコアリングが理想である。スコアリングの計算には、大きく、量子化学的手法、古典力学的手法、経験的手法があり、精度と計算コストにおいてそれぞれ長所と短所がある。研究開発の期間、計算環境に応じて使い分ける必要がある。 特定のターゲットタンパク質に対して、化合物スクリーニングを実施し、結合候補化合物を取得する目的で用いるドッキング計算は、フォワードドッキング計算と呼ばれる。一方で、特定の化合物に対して、その化合物のターゲットタンパク質候補を予測するために複数のタンパク質構造にドッキングさせる計算は、インバースドッキング計算と呼ばれている(図1)。一般には、ドッキング計算手法の主な部分は変わらないが、フォワードかインバースかによって、ドッキングスコアがそれぞれの目的に応じて最適になるように工夫がされている。 米国のBourmeらは、タンパク質立体構造バイオインフォマティクス技術を副作用ターゲットタンパク質予測に活用した事例を報告している1)。これはコレステロール代謝経路に関連するCETPタンパク質の阻害剤設計プロセスにおいて、副作用が発生した実際のケースを例に、副作用の原因タンパク質をタンパク質立体構造予測技術、タンパク質活性部位表面類似性検索などのタンパク質立体構造バイオインフォマティクス技術とリバースドッキング計算を融合した解析から推定した内容である。彼らは、PDBとタンパク質立体構造予測技術により、ヒトプロテオームの57%についてのタンパク質立体構造情報を構築し、それらのデータセットに対して、CETPのリガンド結合部位と同じ表面形状をもつタンパク質を、独自の検索技術で6つのタンパク質ファミリーに絞り込むことに成功した。その後、これらの候補タンパク質ファミリーについて、CETP阻害剤候補化合物とのリバースドッキング計算から得られた結合エネルギードラッグリポジショニングに関する研究
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