〔SUMMARY〕1.はじめにMEDCHEM NEWS 32(1)21-25(2022)21Keyword In silico drug repositioning, docking simulation, bioinformatics, cheminformatics, COVID-19 *1 筑波大学 医学医療系 生命医科学域 IT創薬・ケミカルバイオロジー研究広川貴次Takatsugu Hirokawa*1 ドラッグリポジショニングとは、ヒトでの安全性と体内動態が十分に証明されている既承認薬(もしくは開発中止となった医薬品)の新しい薬理効果を発見し、別の疾患治療薬として開発する戦略であり、実験的アプローチに加え、計算機的アプローチであるinsilicoドラッグリポジショニングが活用されている。Insilicoドラッグリポジショニングの戦略は、大きく、①データ解析に基づくアプローチと、②分子構造に基づくアプローチ、の2つに分類される。前者は、「パスウェイ解析を中心としたバイオインフォマティクス技術によるドラッグ乱雑性(DrugPromiscuity)の推定(①-1)」や、「医療情報等のビッグデータを用いたマイニングおよび副作用パターン解析(①-2)」、「ドラッグターゲット拡大のための文献や特許情報からの知識抽出(①-3)」、後者については、「医薬品化合物ライブラリーとの構造比較による新規ターゲットタンパク質予測(②-1)」、「ターゲット医 構造ゲノミクスやタンパク質立体構造予測技術によるタンパク質立体構造情報の増加と計算科学技術の発展が相俟って、タンパク質立体構造情報とin silico創薬技術を活用したin silicoドラッグリポジショニングが注目されている。また、新興感染症等の有事の治療薬開発においてもドラッグリポジショニングは重要な戦略であり、in silicoを活用することで、効果的な医薬品候補の絞り込みや作用機序解明などが期待されている。本稿では、in silicoドラッグリポジショニングについて概説した後、タンパク質構造情報に基づくCOVID-19治療薬探索のためのin silicoドラッグリポジショニングの実施例や今後の展望について述べる。Theincreaseofprotein3Dstructureinformationbystructuralgenomicsandprotein3Dstructurepredictiontechnology,coupledwiththedevelopmentofcomputationalsciencetechnology,hasattractedattentiontoin silicodrugrepositioningthatutilizesprotein3Dstructureinformationandin silicodrugdiscoverytechnology.Drugrepositioningisalsoanimportantstrategyinthedevelopmentoftherapeuticagentsforemergentinfectiousdiseasesandothercontingencies,andin silicodrugrepositioningisexpectedtohelpnarrowdowneffectivedrugcandidatesandelucidatetheirmechanismsofaction.Inthisarticle,wewilloutlinein silicodrugrepositioning,andthendiscussexamplesofin silicodrugrepositioningforCOVID-19drugdiscoverybasedonproteinstructureinformationandfutureprospects.薬品分子への新規ターゲットタンパク質予測(②-2)」、「ターゲットタンパク質に対する医薬品分子を用いたインシリコスクリーニング(②-3)」等が主な具体的な手法となっている。いずれの戦略も基盤となるデータベースの情報量が重要となる。そのなかでも、構造ゲノミクスやタンパク質立体構造予測技術に相俟って、タンパク質立体構造情報がプロテオームレベルで利用できる環境にあり、これらのタンパク質立体構造情報を活用することで、②-2、②-3のインシリコ創薬技術による網羅的な新規ドラッグターゲット同定が注目されてきている。タンパク質立体構造情報を活用することの利点は、化合物とターゲットタンパク質の相互作用メカニズムを原子レベルで理解できる点であり、選択性の直接的なエビデンスが得られるだけでなく、現状の化合物の結合活性をさらに向上、または副作用を低減させる合成指針を提案できる点からも重要な戦略である。本稿では、タンパク質構造情報に基づくinsilicoドラッグリポジショニングに焦点を当て、関連する要素技術や実施例、そして今後の課題について述べていく。室 教授Professor, Chemical Biology & In silico drug discovery, Division of Biomedical Science, Faculty of Medicine, University of TsukubaIn silico drug repositioning for supporting drug discoveryIn silicoドラッグリポジショニングによる創薬支援
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