5. おわりに19図3 ライフサイエンスのフラット化・オープン化 クラウド上に蓄積されたプロトコールは改変され、さらに最適化を繰り返し、ときには組み合わされ、ネットワークを介して共有され、ロボット上で再現する。とやらではなく、研究のフラット化をもたらすのである。経験や性別・年齢、住む場所に関係なく研究に参加でき、設備や研究資金による研究室格差がなくなり、フラットな研究環境世界を生み出すだろう。 いいこと尽くめだ。 しかし、これだけではない。ロボティック・バイオロジーセンターのクラウド上には、数値化・可視化されたプロトコールとそれらによって生み出されたデータが、紐付けされて蓄積されていく。それらのプロトコールを利用しほかの研究者が再現性を確認することが可能である。また、それに止まらずさらに改変され最適化を繰り返し、ときにはプロトコールの一部をほかのそれと組み合わされるなど、さまざまな形で再利用されるだろう。それによって技術移転や、プロトコールの改良や新たなプロトコールが飛躍的なスピードで生み出され、共有されていくだろう。そしてそれが、ネットワークを介して共有され、ロボット上で「いつでも、誰でも、どこにいても」再現するのである。これをサイエンスのオープン化と呼ぶ。無論、プロトコール所有者・オーナーシップや、オリジナリティや再利用の許諾の方法など、整備しなければならないルールや運用規範など、道のりは決して容易ではない。しかし、研究の未来はこのような方向に向かっていくだろう。 冒頭を繰り返すが、筆者らが「ロボティック・バイオロジー」を標榜しその実現性を実証したのは2017年のことである1)。レビュアからは賛否両論、あるいは、かなり批判的なコメントも投げつけられたが、数回のやり取りで受理され、意外に早く出版された。当時、科学の自動化ソリューションを提供するScienceasaServiceというビジョンは、すでに世界の意識の中では先進的でも何でもなく、新型コロナウイルスが出現するまでもなく、「近未来の既定路線」だったと、今、ひときわ強く感じる。 AI・機械学習が、囲碁やロジスティックのような閉鎖空間(生じるすべての現象は正確に観測・計測可能であり、予想外のでき事が起きない空間)で大成功することは、万人が知るところである。翻って、ライフサイエンスは、外乱が多く、予測不可能な現象は常態であり、再現性の危機に常にさらされている。 特に日本では、人員確保・人材育成が常に足枷となり、ライフサイエンス・バイオのビッグデータの未来はない。しかし、ロボットはスケールし、再現性の高い高品質なデータを量産可能である。
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