MEDCHEM NEWS Vol.32 No.1
18/52

4. 研究のフラット化とオープン化18 iPS細胞の最適分化誘導条件を自律的に発見することに成功。図2  自動顕微鏡と実験ロボットをAIが統制御するクローズドループシステム 者を満点とするならば、ロボットはせいぜい40点ぐらいであった。しかし、バッチ内すべてのwellは再現的に40点であり、iPS細胞の分化誘導という長期で複雑な作業でも、再現的に遂行することが可能であることが実証された。 そこで、筆者らは、ロボットに、顕微鏡画像からRPEの分化度をスコアリングし、そのスコアを基にパラメータ最適化を自律的に行うAIを実装した(図2)。このAI・ロボットシステムは、わずか185日で熟練者のスコアを超えるパラメータを発見した3)。パラメータの探索空間は約2億通りのパラメータセットであった。 すなわち、ロボットによるRPE細胞の分化誘導DXにより、最適化作業にAIが実装され、人間には不可能な膨大な探索空間から最適パラメータを自律的に発見できるという、とてつもなく「いいこと」ができた。1つの分化誘導プロトコールを確立するのに数年かかる再生医療の現場の研究開発生産性が、今後革命的に向上していくだろう。 ロボティック・バイオロジーが生み出す真の価値は、これだけに止まらない。ロボティック・バイオロジーはリモート研究を可能とする1)。未来の「在宅研究」では、各研究室・研究機関はもはや研究インフラをもつ必要はなく、その代わりに、研究者はネットワーク越しに、莫大な数のロボット群が稼働している、ロボティック・バイオロジーセンターにプロトコールを送れば、センターで稼働するロボットたちが実験プロトコールを実行し、その結果・データが、研究者に送り返えされるだけで研究が成立するというラボ・レスの世界となるであろう(図3)。そしてラボ・レスは、サイエンスとは名ばかりで、ベンチワークに忙殺されていた研究者を解放する。解放された研究者は、ロボットが生み出す精度と再現性の高いデータを基に、真に知的作業に専念できるようになり、高い生産性を生み出す。また、その道一筋のエキスパートにしかない難易度の高い実験にたちどころにアクセスできるのであれば、熟練技術のない若い研究者もセンスと独創的なアイデアで勝負することができるようになり、長い下積み生活はなくなる。また、ラボに長時間拘束されることがなく、通勤時間がなくなれば、女性が研究と育児を両立することも容易だ。また介護のため離職する必要もなくなるだろう。会議に忙殺され研究現場に関われなくなったシニア層も(筆者自身のこと)、また研究の戦力として復帰できるという希望が膨らむ。 すなわち、研究のリモート化とは単なる「働き方改革」

元のページ  ../index.html#18

このブックを見る