MEDCHEM NEWS Vol.32 No.1
16/52

〔SUMMARY〕1.はじめに2. ライフサイエンスの自動化戦略16MEDCHEM NEWS 32(1)16-20(2022)Keyword Robotic Biology, Artificial Intelligence, Lab-automation, Remote Operation *1 国立研究法人産業技術総合研究所 生命工学領域 細胞分子工学研究部門  夏目徹Tohru Natsume*1 ライフサイエンスの自動化がもたらす「ロボティック・バイオリジー」なるものを標榜したのは、2017年のことである1)。当時、パンデミック、コロナ禍、ロックダウンが現出し、テレワークなるものが現実の生活として社会に浸透し、自動化・リモート研究が耳目を集め希求の課題となるなど想像もつかないことであった。ライフサイエンスにおける再現性の危機2)、少子化問題、バイオハザード、捏造問題等々、研究を取り巻く状況は悪化の一途をたどり、日本はもはや科学立国後進国と成り果てたことを強く実感するばかりである。このような状況を包括的に解決し、研究生産性を飛躍的に向上させるためには、ライフサイエンスにおける自動化の推進が必要であると考え今日に至っている。 本特集で読者諸兄と共有したいのは、自動化の「真の」価値である。人が行っている作業を単純に機械・ロボットに置き換えることには、それほどの価値はない。ロ ライフサイエンスにおける自動化の価値は、単なる人件費削減やスループット向上ではない。各分野でデジタルトランスフォーメーション(DX)が推進される中、ラボオートメーションは、まさにバイオにおけるDX(バイオDX)を可能とする実体その物であり、それが真の新しい価値である。本稿ではバイオDXを実現するためのロボティックス・自動化戦略と、それによりもたらされるバイオDXが、爆発的な研究開発の生産性の向上を生み出すことを事例とともに概説する。さらに、ロボットにより実現するリモート研究が、単なる働き方革命ではなく、サイエンスのフラット化とオープン化を実現できる可能性について論じる。Thetruevalueofroboticsinlifescienceisimplementationofbio-digitaltransformation(Bio-DX).Robotsenabletovisualizeanddigitizemaneuversandskillsofhumans,leadingtoparameterizetacitknowledge,whichallowsustooptimizeprotocols.Andresearcherscanshareandreproducetheseoptimizedprotocolswithrobotics,leadingtoraiseresearchproductivityexponentiallyandrealizeflat/openscience.ボットはライフサイエンスへの機械学習(AI)実装を可能にし、バイオにおけるデジタル・トランスフォーメーション(バイオDX)や遠隔研究を実現するとき、その価値は最大化する。このことを、いくつかの事例をもとに概説し、本特集の序論としたい。 ライフサイエンスの自動化はあまりうまくいっていない。ある意味、最も自動化が遅れた分野であるといえる。細胞培養における作業など、30年間まったく代わり映えしない。しかし、我々の周りには、多種多様な自動化装置・ロボットがすでに存在している。細胞培養ロボットが市場に現れたのは、実に20年前であり、分注ロボットや、ある意味、質量分析装置に付属するオートサンプラーなども立派なロボットである。しかし、これらの装置・ロボットはすべて単機能であり、実験作業のプロトコールの1つのステップを自動化することを目的としており、それらの各ステップをつなぐのは人間である。その限りにおいて、ヒューマンエラーはなくならず、ルーチンワークはつきまとう。また、自動化が困難な煩雑な手作業は多く残る。首席研究員Prime Senior Researcher, Cellular and Molecular Biotechnology Research Institute, Department of Life Science and Biotechnology, National Institute of Advanced Industrial Science and TechnologyRobotics and AI accelerates remote automated life science[特集]創薬を加速する機械学習とロボティックス序論 機械学習とロボティックス特集にあたって

元のページ  ../index.html#16

このブックを見る